「今夜は18時半で良いんですよね?
会社の入り口で待ってますね。」
気持ちを切り替え、あえて明るく果穂が言う。
「ああ、堂々と正面から入っておいで。
受付の守衛にも伝えておくし、
定時は過ぎてるから、社員もそんなに残って無いと思う。」
「えっ⁉︎社長室まで行くの?」
「その方が俺が安心だから。
社長室で待ってて。
なんなら誰か玄関先まで迎えに出すから。」
「…うん。」
「電車じゃ無くて、タクシー使うんだぞ。」
翔は、念押しして、果穂の頭をポンポン撫ぜる。
そのタイミングで翔のスマホが鳴る。
果穂はパッと翔の膝から飛び除き、距離を取ってしまう。
「なんだ…。」
『社長、お楽しみにのところ申し訳ありませんが、そろそろお時間です。』
運転手から催促の電話だ。
「分かった…、今行く。」
タイミング良過ぎだろ…、
果穂にキスぐらいしたかったのに…。
翔は、苦笑いして立ち上がり、
エプロンを外してくれる果穂に、
さっと頬に掠めるほどのキスを落とし、キッチンカーを降りる。
「じゃあ、また後で。」
「お仕事頑張って下さい。」
「果穂も、無理しないように。
忙しくなったら連絡して。誰か暇な奴、派遣するから。」
そう言って、小走りで翔は去って行く。
滞在時間僅か30分、束の間、夫婦の時間を過ごし、お互いそれぞれの仕事に戻る。