本当は昨夜に、荷物を作っておきたかったのに……。

果穂は、朝からやたら爽やかな自分の夫の顔を盗み見てしまう。

昨夜は、お風呂上がりに捕まえられ、
ベッドに連れて行かれたと思ったら、
少しだけの筈がもう少し、になって結局なかなか離して貰えず…。

甘い甘い夜を過ごす事になってしまった。

「何?」
翔が顔をじっと見返してくる。

「…別に何でもないよ。」
ちょっと拗ねた言い方になってしまうのは否めない。

翔は、感が鋭いから直ぐ察知する。

「…荷物が作れなかったのも、 
朝起きられなかったのも、
全部俺のせいだ。

分かってる…。 
なんの弁明の余地もない。

強いて言えば、果穂が可愛すぎるのがいけない。」
翔からすれば、今週は耐えた一週間だったのだ。
先週末の失態を反省して、5日耐えた自分を褒めたい。

果穂無しでは、もはや生きていけないとまで思う。

「果穂、これ車で食べて。
前に食べたがってたcafeのドーナッツ。」
翔は早くも最終兵器を取り出す。

「えっ⁉︎
これ…今話題のcafeの限定ドーナッツ?
これどうしたの?えっ⁉︎いつの間に?」
果穂のテンションは一気に上昇する。

「果穂の言う魔法のコネを使ってみた。」

「えっ⁉︎でも、並ばないと買えないくらいの人気だって里穂が言ってたよ?」

「たまたま、出先でここのオーナーに会って、手土産にもらった。」
本当は知り合いだったから、
電話して取っておいてもらったのだが、
権力を行使するのは果穂が嫌がると思い、
あえて優しい嘘をつく。

「わぁ嬉しい。ありがとうございます。」

「良かった。これで許してもらえるか?」

「仕方ないから、許してあげます。」
笑顔になった果穂を見て、翔はホッとする。