この週のランチ向上委員会の会議は 社長、副社長が参加した為、女子社員達は色めき立ちワイワイと盛況に終わった。

「社長、前にエレベーターでお会いした時に、ランチミーティングを私達に提案してくださったのを覚えていますか?」
1人の女子社員が勇気を振り絞って翔に声をかける。

「ああ、…確か…定時で帰った日。
そんな事を話したような。」
翔はあの日、
果穂を迎えに行く事で頭がいっぱいだったから、何を話したかまではうる覚えだったが…。

「そうです!それを実現にしたくて、
私達が立ち上げました。
だから、約束通り社長も参加して下さいね。」
念には念を押され、出来る限り参加するからと翔は約束せざる終えなくなった。

翔が会議室を出た後、雅也に女子社員が数名聞いてくる。

「あの、このレシピってどなたが作ったレシピですか?」

「あー、描いた本人からは内緒にして欲しいって言われてるんだよねー。」

雅也はそう言ったものの、翔信者だと思われるこの女子社員達の反応が無性に気になる。

「ここだけの話、
実はこれ、社長の奥さんが描いたものなんだよね。
絶対に内緒だからね。口外しない様に。」
人差し指を口元に当てて、雅也は言う。

「えっ⁉︎凄い!!
社長の奥様なんですか⁉︎
うわー。嬉しい!なんてレアなんですか!!」
キャーキャーと残った4人はしばらく興奮覚めやらぬ様だった。

「尊い!
副社長、社長の奥様ってどんな感じの方なんですか?」

「可愛らしくて、綺麗な女性だよ。
あの、社長も溺愛してるくらいだから。」
雅也は苦笑いしながら女子達を見守る。

「社長と奥様は私達の推しなんです。
何でも良いのでお二人の事、是非教えて下さい。」

推しとは?
巷でよく言う推し活と言うやつか…。

翔も尊い存在になったもんだなと、変に納得してしまった。

「このレシピ、社長の朝食メニューらしい。彼女、料理上手だし、日々健康に気遣ってるみたいだよ。

ちなみにクリスマスに、彼女が作ったホールのケーキのお裾分け、俺も食べさせてもらったよ。」

「えーーっ!!羨ましい。
そして想像以上に尊いです!いつか奥様にも会いたいです。
会社に来られる事って無いんですか?」

4人のうちの1人が食い付いて聞いてくる。

「さぁ、どうだろう?
社外向けにお披露目会はやるみたいだけど、彼女は立場をわきまえてるから、用事が無い限り、まず会社には来ないと思うよ。」

「そうなんですか…。
ちなみにこの前、社長がお姫様抱っこしてたって噂の方が奥様ですか?」

「ああ、噂になってたね。
仕事終わりで車で寝ちゃったらしいよ。
ほら、あの男過保護だからそのまま放っておけなくて、社長室まで連れて来たみたいだよ。」
キャーキャー女子社員達は騒ぎ、それぞれ推し活を楽しんでいる様だ。

こっちは戸川の様に拗らせる事は無さそうだな。と、雅也は安心する。

いろんな形の好きがあって、
それぞれの想いは時に凶器になったり、
生きる潤いになったり、はたまた目標になったりと、いろんな形に変わって2人を取り巻いている。

それぞれが、それぞれの気持ちに折り合いをつけて、自分の幸せの為に生きて欲しい。

あの2人は、意外と他人の好意に鈍感だから、ほっといても幸せにやっていけるよな。 
と雅也は思った。