「いえいえ、雅也って呼んでくれていいよ。
それよりさ、ランチミーティングの時の食事を自分達で作ることになったんだ。
一応、飲食店だから食のプロもいるし、
賄いみたいな感じでやってみようって事で
メニューを考えたいんだけど、
商品開発部は忙しいってなかなか取り合ってくれないんだ。
果穂ちゃん、料理得意だって翔が言ってたから聞いてみたかったんだ。」
「えっ⁉︎
私なんて普通のご飯しか作れませんし、
無理ですよ?」
びっくり顔で果穂が雅也と俺を交互に見る。
「果穂の普段作るものでいいんじゃないか?」
果穂が答え易いように、ハードルを下げてみる。
果穂は少し考えてから、
「翔さん、私のバックってどこですか?」
そう言うので、俺のカバンと同じ引き出しに入れたカバンを取りにデスクに戻る。
「ありがとう。」
と、カバンを受け取り1冊の小さめなスケッチブックを取り出す。
俺も未だに恥ずかしいからと言われ、
見せて貰えないスケッチブックだ。
「はっ?
果穂、それ。いいのか?
俺だってまだ見せてもらってないのに…。」
若干ショックを受ける。
「副社長さん、あ…、雅也さんがとても困っているようなので。」
雅也が、果穂に名前で呼ばせるのは気に入らないと思い、
「こいつ、高橋って言うんだ。」
と、果穂に苗字を教えてあげる。
「あ、高橋さん。」
言い換えてくれてホッとする。
俺の心の狭さに、雅也が呆れた顔をするが
気にしない。
しかし、果穂の大事なスケッチブックを雅也が困っているからと、簡単に見せてしまっていいのか?
デザイナーが自分のアイデアを見せるぐらい貴重な物の筈だ。
しかも、夫である俺には見せてくれないのに、
雅也には快く見せてしまう、果穂の潔さに戸惑いを覚える。
前に、裸を見せるくらい恥ずかしいって言ってなかったか⁉︎