印鑑を6枚目の書類に押したタイミングで、
果穂がボーっと目を覚ました。

こちらを見ながら、瞬きを繰り返す。

「あれ?……翔さん……ここは、どこ⁉︎」
果穂はパッと起き上がって、ソファにちょこんと正座する。

「おはよう。少しは休めたか?」
翔は優しく笑って、寝癖のついた果穂の髪を撫でる。

「えっ、えっ⁉︎ここ、社長室⁉︎」
キョロキョロ周りを見渡しながら、果穂が青ざめていく。

「大丈夫だから、落ち着け。」
背中をトントンしながら、軽く抱きしめる。

「ど、どうやってここまで⁉︎」

「抱き上げて、連れて来たけど?
よく寝てたし起こすのも可哀想だし、
車の中に置き去りなんて、そんな危ない事
出来ないだろ?」
仕方なかったんだと伝える。

「……、まだ、定時ですよね……、社員さん沢山…いましたよね?…」

「いたと思う。が、気にしなくていい。
自分の妻を抱き上げて何が悪い。」

果穂は真っ赤になって両手で顔を隠す。

気持ちが落ち着くまで、そっとしとおくか…。

残りの2枚の書類を黙々と読んで決済する。
ギリギリ定時で、計8枚の書類の処理を終わらせる。

定時で帰りたいが、果穂は大丈夫か?
様子を伺いながら話す。

「急ぎの仕事は終わったけど、帰れるか?」

「まだ…社員さん沢山いますよね?」
放心状態の果穂がボーっとしながら聞いてくる。

「まだ、いるかも知れないな。
ああ、雅也が果穂と話したがってたな。
呼んでみるか?」

雅也と話せば、少しは落ち着くだろうか。
仕方が無いから、雅也の部屋に内線する。