トントントントン。

遠慮気味にノックをして、副社長の雅也が社長室に入って来る。

「お疲れ様。果穂ちゃん来てるんだって?」

「仕事の用じゃ無きゃ入って来るな。」

お互い、果穂を起こさないよう小声で言い合う。

「今、社内中がお前が女性をお姫様抱っこして帰って来たって、噂で騒めいてるぞ。」

「自分の妻を抱き上げて何が悪い。」

「いや、果穂ちゃんが起きたら相当恥ずかしいだろうなと思ったけどな。」
そう言って、雅也は遠慮無く前のソファにドスンと座る。

「何の用だ?早く言えよ。」

「優斗と戸川が、果穂ちゃんのcafeに行ったって聞いたからさぁ。 
俺も行きたかったなぁと思って。」

「お前にあの場所教えたら、煩いぐらい行くだろ?」

「確かにな。」

で、用はなんだと目で訴える。

「果穂ちゃん、無防備に寝ちゃって可愛いな。」

「覗くな。寝顔を見るな。」

ハハっと雅也が笑う。
「本当、果穂ちゃんの事になると途端に視野が狭くなるな。」

果穂が身じろぎ、ハッとする。

シーと人差し指を立てて、雅也を威嚇する。