そっと外に出て、新田に連絡を入れる。

「今、駐車場に着いたんだけど、果穂が寝たから抱き上げてそっちに連れて行く。」

『承知しました。荷物持ちに伺います。』
それから、5分と待たずに新田が来る。


さっきぶつけた所をそっと確認する。
赤くなってないから大丈夫そうだと胸を撫で下ろす。

果穂の膝に背広を掛けて、慎重に抱き抱え、歩き出す。

「果穂さん、医務室に運びますか?」
新田が小声で話しかけてくる。

「いや、社長室のソファに寝かす。」

「分かりました。」

エレベーターで38階に上り、会社のフロアを果穂を抱き抱えながら歩く。

新田が前方で、すれ違う社員からの好奇な目線と挨拶を、上手く対処しながら誘導する。

果穂を社長室のソファにそっと下ろして、
決済書類と、印鑑をデスクから素早くローテーブルに移し、果穂の寝ているソファに座り、そっと膝に頭を乗せて膝枕をする。

果穂の寝顔を見ながら仕事をすると言う、
至福の時間を思い掛けず、手に入れてしまった。

「社長、向田部長が、先程の社内会議の内容の報告をしたいそうですが、
どうしますか?」

「内線でお願いしてくれ。」

「伝えます。」
果穂がせっかく寝ているのだから、出来るだけ静かに寝かせてあげたい。