本社まで、果穂のキッチンカーで一緒に向かう。
疲れているだろう果穂を助手席に座らせ、
翔が運転する。

「果穂、1時間だけ待っててくれないか?
今夜はどこかで食べて帰ろう。」
どうしても離れ難く、翔はついそう言ってしまう。

「でも、この格好じゃ恥ずかしいよ…。
汗もかいたから、シャワーも浴びたいし。」

いつも出店する時は、黒のチノパンに白のポロシャツ、
その上にキッチンカーと同じ色の、
焦茶色のエプロンを着けている。

「どんな格好だって、果穂は可愛いから平気だ。」

「翔さんはフィルター越しで私を見てるから、そう言えるんだよ。」
果穂は少し困った顔をして、そう言った。

まだ、そのフィルター論崩さないんだな。
果穂らしいけど、もう少し自信を持ってもいいと思う。

エプロン姿の果穂を目当てに来る客だっている筈だ。これ以上ライバルは増やしたく無いが…。


会社まで、あと5分くらいの所で渋滞に巻き込まれる。

果穂は隣で睡魔と闘っている。 

軽トラックの簡素な椅子では、
後ろに倒す事も出来ず、

こくんこくんと船を漕ぐ頭を、
壁に打ちつけやし無いかと、心配しながらチラチラ見守る。

信号が青に変わりゆっくり走り出す。

果穂の頭が左に傾き、咄嗟に左手を差し出すが寸分間に合わなずに
ゴンっとガラスに打ちつけてしまう。
果穂はそのまま眠ってしまっている様だ。

大丈夫か⁉︎っと、
翔はそっと左手でヘッドレストに果穂の頭を戻すが、
不安定で気が気じゃない。

ハラハラしながら、
いつもより慎重に運転を心掛け、
無事に本社の地下駐車場まで辿り着く。