戸川と優斗が帰って、『陽だまりcafe』がまた少し忙しくなる。

閉店まで30分程、
この時間帯はサラリーマンが多い。

きっと、果穂にほんのひととき癒されたくて彼らはここに来るんだろうな。

翔もその1人だと、自分でも自覚している。

果穂は俺のだ。
と思う嫉妬心を抱きながら、癒されたいと思う気持ちは痛いほど共感出来る為、
翔は耐えて、あえて遠くのベンチに座り見守っている。

手伝うと言ったのに、
『休んでいて下さい』と、強く押され、
試作品だと言うフレンチトーストを渡されて、
このベンチに留まる事を余儀なくされている。

あーーあ、そんなに可愛く笑わないでくれ。
翔はモヤモヤしながら見守るしかない。

最後の客が帰り、
やっと辺りも静かになったのを見計らって、
翔はそっとカフェに近付き果穂を労う。

「お疲れ様、今日も結構集客あったんじゃないか?」

「お疲れ様です。今日の売上知りたい?」
嬉しそうに果穂が言ってくるから、

「いくらだった?」
と聞くのに、
ふふっと笑い、
「内緒。翔さんには教えられません。」
と、可愛く言ってくる。

「何だよ…。」
苦笑いしながら、あえてしつこくは聞かない。

果穂は売上げを気にしない、
はたから儲かる事を考えて無いのはよく分かる。

趣味と言う名の奉仕活動だと、俺は思っている。

思いやりと優しさを笑顔に込めて、
疲れた人々に提供しているのは、ホッと出来るひと時だ。

『まごころcafe』そんな場所であっていいと思う。

利益ばかりを求め、会社をいかに大きくするかばかりを考えていた俺にとって、このキッチンカーで大事な事を教えてもらっている気がする。