傍観者として話しを聞いていた優斗が、話し出す。

「戸川さん、君が社長に憧れのような感情を持っていたのは、僕から見ても薄々気付いていました。
それだったら尚更、社長の幸せを喜んであげるべきではありませんか?

社長はこれまでこの会社の為、プライベートも削って、身を粉にして働いてきているのは君も良く知ってる筈です。

その社長が、初めて惚れてやっと手に入れた人が奥様なんです。

翔にとったら初恋みたいなもんなんだ。
それを理解して祝福してあげるのが、部下としての君の役割だ。
勘違いにも程がある!」

いつもは穏やかな、優斗が声を強めるのは始めて見る。

優斗といい雅也といい、良い親友を持ったなと改めて思った。

「これ以上、俺の妻を侮辱するならこちらとしても考えがある。
君は賢い人だと思っていたのに、非常に残念だ。
もし、自分の言い行いを悔い改めるようなら一度だけチャンスをくれてやる。

果穂に謝って欲しい。
君の勘違いで彼女を傷つけた事を。
そして気付いて欲しい。
果穂は俺には君の事を一言も言ってこない。

なぜか分かるか?
君の立場を理解しているからだ。
社長の俺に一言でも君の事を話したら、きっと君はこの会社には居られなくなるって事を。」
俺はそう言い放ち席を立ちデスクに向かう。

「気持ちを悔い改めて果穂に心から謝罪を要求する。それが出来なければ君は俺の敵だとみなす。」

戸川は俯き目を伏せる。
「……分かり、ました。……少し、時間を頂きたいです……。
ただ、私はこの7年間ずっとずっと、社長の事を思い続け、貴方の為にと仕事を頑張ってきたんです。」
泣きながら思いのたけをぶつけてくる。

「だから?
それこそ君の単なる一方通行な思いは、俺には傍迷惑でしか無い。」
静かにそう言い放ち翔は戸川を睨み付ける。

戸川はワーっと泣き出し、走って部屋を飛び出して行く。