「翔さん?どうですか?」
何も言わない翔に心配になった果穂が近付いて来る。

「やっぱり…着せられてる感出ちゃってるかなぁ。」

「いや…、凄く良く似合ってる。
赤がこんなにも似合うとは思わなかった…。」

上手い言葉も見つからず、ありきたりな褒め言葉しか出来ない自分の不甲斐なさを痛感する。

赤色は着る人によっては派手で下品な感じを受けるが、果穂が着ると上品で煌びやかな感じを与えるから不思議だ。

「どうしよう果穂、綺麗過ぎて誰にも見せたく無いんだけど…。」

「そのセリフ、前にも聞いた様な気がする。」
ふふっと笑って、果穂もやっとホッとしたような表情になる。

「翔さんも着替えて来て。」
果穂に促されカーテン側に連れて行かれる。

果穂が見えなくなる事に不安を感じ、
カーテンを閉めなくていいと伝える。

本谷が果穂のメイクを始める様子を観ながら着替えを進めていく。

本谷と果穂の近さを見せられ、
内心ハラハラしながらこれが本谷の仕事なんだと自分に言い聞かせて、気持ちをなんとか落ち着かせる。

本谷は確かに元女性で、男性恐怖症な果穂にとっては心許せるのかもしれない。

ただ、本谷の中身は男なんだと思い知らされる。
アイシャドウを目元に描く時、 
リップを唇に塗る時、どう考えても普通の男ならドキドキしてしまうだろう。

果穂の魅力は隠しきれない。

目を閉じて無防備に顔を寄せる果穂に
翔はハラハラしながら、違う意味で心臓がドキドキしてしまう。

果穂の事になると、どうしても冷静ではいられない。