果穂と2人になって何を話すつもりなんだと翔は警戒心を露わにする。

「どうだい。カヌレとまた違って、中身が違うといろいろ楽しめるだろ?」
得意そうにそう父は話し、嬉しそうに笑う。

美味しそうにパヌレを食べる果穂を横目に、

このタヌキ親父相手じゃ埒が開かないな。
と、翔は単刀直入に話を切り出す。

「何が目的なんだ?果穂に何の用何だ?」
ズバッと聞いてくる息子に、さすがだなと思いながらもにこやかに父は答える。

「別に何の意図もない。
家族として果穂さんと仲良くなりたいだけだ。」
そう言って、父もパヌレを食べ始める。
 
父の裏が読めない翔は怪訝な顔をしながら眉をひそめる。
 
「翔さんも、せっかくですから食べてみて下さい。美味しいですよ。」
果穂にそう勧められて仕方なく手をつける。

翔からしたら少し甘過ぎるかと思うが、
果穂は紅茶と良く合うと、嬉しそうに平らげた。

「別に深い意味があって呼んだわけじゃない。初めて娘が出来たんだから、もっと話したいと思うのが親の心境じゃないか。
翔を通すと、なかなか会わせてもらえないから今回は不意をついただけだ。」

「何だそれ…。 
まぁ。今日の所は果穂も嬉しそうだし、良しとする…。」
何故か上から目線の息子だが、父もガンガン言われても悪い気がせず、むしろ嬉しくなってくる。

「この歳になると、お前みたいにストレートに言ってくる奴もいなくて、いささか退屈してだんだ。
良い男に成長したな。 
やっぱり翔は経営者に向いていると思う。
健にその器量があるか…若干心配だ。」

そんな心を大っぴらに見せてくる父親を知らない翔は、まだ裏があるのかと疑うが、

「健は二代目には相応しい器だと思う。
穏やかだし、きっと上手く目上の人にも取り入れられるだろ。
俺は貴方の後は無理だと思う。貴方と俺は良く似てる。」
翔も、日頃思っていた事を口にする。

「似てるか…?
まぁ、自分で起業した方が面白いしな。
お前は好きな事をやっている方が輝くのかもな。」
父親として経営者として、翔を認めた発言をする。

そんな父を信じられないと言う目で見ている翔を、果穂は嬉しそうに微笑みながら見守る。