翔はダイニングに向かい、
キッチンで朝食の準備をする果穂を、後ろから抱きしめる。

ビクッと反応して、
恥ずかしそうに微笑む果穂が可愛くて、
ずっとこうしていたいと思うほどに幸せを覚える。

「頭痛薬見つけたけど、ご飯食べられそう?」
翔の腕の中くるりと向きを変え、向かい合った果穂は、気を配りながら翔の頬をよしよしと撫ぜる。

ひんやりとした手が気持ちいいと翔は思い、その手に手を重ねる。

「果穂の手、冷たくて気持ち。
…頭が痛いだけだから大丈夫だ。
食べるよ。」

「卵粥にしたのもうちょっと待ってて。
ソファで横になってて。」

「病人じゃないから…大丈夫だ。
昨日、俺、果穂に何かしたか……?」

「健君のワンちゃんみたいで可愛かったよ。
ふふっ、そんなに気になる?」

可愛く笑う果穂とは対照的に翔は怪訝な顔をして、実家で飼っている健の犬を思い出す。

確かシェパードだったか…アレと似ているとは?

果穂の例えはいつも可愛いが、
たまに想像力が豊か過ぎて、現実主義の翔には理解出来ない程である。

「…背広は自分で脱いだのか?」

「うん。手も洗ってたし歯も磨いてたよ。」

日常のルーティンは、酔っていても忘れないものなんだと我ながら感心する。

「で?どこが犬っぽかった?」

「えっと……ずっと私について来て、
離れてくれなかったから…。」
真っ赤になって果穂が俯く。

どう言う事だ⁉︎

離れなかったとは……
願望のまま行動したと言う事なら…。

「こう言う事か?」
果穂を抱きしめ、再現してみる。

コクコクと果穂が首を縦に振る。

抱きしめたまま、手を洗って歯を磨いて…

それだけで、ここまで真っ赤にはならないな……キスぐらいはしたかもな…。

「果穂は、嫌じゃ無かった?」

果穂がコクンと頷いてくれたから、翔は一安心しする。

「それなら良かった…。
しばらく…飲まない様にするから許して。」

「私、怒ってないよ?」

「自分の戒めの為だ…。」

それからしばらく、
 
果穂を手伝うごとに、頭を撫でられるという犬的な触れ合いに、ちょっと嬉しいと思ってしまう翔がいた。