会場中を惹きつけ、魅了した講演の最後には、
ディスカッションの様な質疑応答が続き、
会場の観客との対話があり、
いろいろな質問が飛ぶ。
翔はそのどれもを笑顔で瞬時に受け答えし、対応力の高さを見せつけた。
女性からの質問には、
翔のプライベートを探る様な、
経営戦略とはまったく関係ない事も聞かれ、果穂自身はまるで、自分の事を訊かれているかの様に思い、戸惑いハラハラしてしまった。
特に、
『堀井社長は、最近ご結婚をされたようですが社長業とプライベートとの時間の割り振りが、大変では無いかとお察しします。
どの様に切り替えプライベートを充実させているのでしょうか?』
と、果穂がドキンとする様な質問もあった。
元々、仕事だけの忙しい毎日を送っていた翔の生活に、私が転がり込んだ事で迷惑をかけていないかと、日々気になっていた為、
翔の回答に固唾を飲んで見守る。
『個人的な話しになり恐縮しますが、
私の妻は出来た人で、決して仕事に対しての愚痴や不満を言う事はありません。
例え土日に仕事が入っても、約束が突然キャンセルになっても、嫌な顔一つせずに笑顔で送り出してくれます。
彼女の理解と支えのおかげで、
こうして社長業を日々こなせているのだと感謝しかありません。
ただ、私的にはもっとプライベートを充実させたいと考えているので、
現在、仕事量の軽量化と振り分けを行っております。
特に必要の無い仕事は辞め、
私でなくても出来る仕事は他の幹部に振り分け、紙の決済を減らしデータ化する事で、
何処にいても、パソコン一つで仕事が滞る事のないように、色々なペーパーレス化に取り組んでいます。』
果穂は、翔さんが自分の事をそんな風に思っていてくれたんだと嬉しく思う。
果穂としては、翔の大切な時間を私なんかのために、費やしてしまうのは申し訳ないと思っていたし、
出来るだけ仕事の邪魔はしたく無いと、
普段から必要以上に頼らない様に心掛けていた。
それなのに、休み時間を潰してまでもキッチンカーを手伝ってくれたり、
時間をやりくりして迎えに来てくれたり、
心配になるほど貴重な時間を惜しみなく果穂の為に使ってくれる彼に感謝していた。
最後は翔はこう締めくくる。
『プライベートを充実させると言う事は、
仕事にとっても活性化になり、効率化と充実感を与えてくれます。
以前の私は仕事の為に、身を粉にしてプライベートを犠牲にしてまで会社の為にと働いていましたが、
それはただの時間の無駄遣いでしかなかったと、今になって感じ、反省点でもあります。
その事を気付かせてくれた妻には本当に感謝しかありません。
私自身、身を持って感じている事なので、
皆様も是非、プライベートを充実したものにして欲しいと思います。』