しばらく待っていると、ツカツカと数人の足音が聞こえ、話し声も聞こえてくる。

「お疲れ様です。」
と、甲高い女性の声もする。
果穂は反射的にビクッと体が揺れる。
この声は、きっと戸川さんの声。

まだ帰って無かったんだと、果穂の気持ちは少し逆立つ。

複数の足音が止まったかと思うと、
ガチャリと、ドアが開く。

「お待たせ、果穂。」
一直線に果穂の元へと、翔が近付いて来てくる。
立ち上がって、
「お帰りなさい。」
と頭を下げる。
彼は微笑んで、優しく頭を撫でる。

「腹減っただろ?
時間が無いからレストランに寄れそうも無いけど、これ買って来た。」
そう言って、紙袋を手渡される。

「ありがとうございます。」
袋の中を覗いてみると、以前、翔のcafeで妹の里穂が美味しそうに食べてたスコーンが3つ。

「これ、テイクアウト出来るんですね。」
そう言って笑顔を向けると、

「本当は出来ないんだけど、果穂が前に食べたがっていたのを思い出したから、特別にもらってきた。」

「嬉しい。ありがとうございます。」
そんな些細な事でもちゃんと覚えていてくれた事に、嬉しく思う。

「はいはい。もういいですか?
夫婦のイチャイチャは見てられない…。」
そう言って、呆れ顔で秘書の新田が部屋に入って来る。