「なんなの?
私、貴方みたいな人、大っ嫌い。」
最後に言う言葉もなくなったのか、

戸川は子供の様な言い分を残してバタンとドアを響かせ、社長室を去って行った。

大っ嫌いかぁ……、初めて言われたな…。

心をズタズタに切り裂かれて、ぼろぼろになったけど……

…だけど、それでも負けない翔さんへの気持ちに気付けたから…良かった。

そう思う事にしよう。

大丈夫、まだ笑える…、
涙がこぼれ無い様に天井を見上げる。

カバンの中のスマホが震える気配を感じて、慌てて取り出す。

1つ深い深呼吸をして、果穂は通話ボタンをタップする。

「もしもし。」

出来るだけ明るい声で、翔に落ち込んでる事がバレない様に。

『果穂、お疲れ様。
無事に本社に着いたか?』

「お疲れ様です。
今、社長室に通してもらいました。
待ってますので、お気をつけて帰って来てください。」

『どうした?なんで敬語?』
ハハっと笑う翔の声を聞き、だいぶ気持ちを取り戻す。

「なんか、この部屋落ち着かなくて…。」

『自分の家みたいに寛いでくれればいい。後、10分くらいで戻るから。
もし、腹減ってたら、机の左側1番下の引き出しにチョコが入ってるから、好きに食べて。』

「ふふっ、ありがとう。
私が机の中、漁っちゃっていいの?」

『果穂に、見られたら困る物なんか何も無いから大丈夫。じゃあ、また後で。』

「うん、待ってるね。」

少し翔の声が聞けただけで、随分気持ちが落ち着く。

戸川も戻って来る気配がないので、果穂はそっと立ち上がり机の方へ歩み寄る。

翔らしく机の上も、綺麗に整頓されている。
そっと左側の1番下の引出しを開ける。

普段からよく、手土産に買って来てくれるチョコの箱が入っていた。
後は、ガムとか飴とかが入った小瓶、単行本が数冊に、辞書にCD。

多分ここには、仕事に関係の無い私物を入れているんだと把握する。

チョコの箱を取り出すと、その下に薄っぺらい紙が2枚入っていた。
何気なく手にすると、以前私がみかんを送った時の手書きの伝票だった。

えっ?こんな物まで捨てないで取ってあるの⁉︎

びっくりすると同時に嬉しくもなる。

この人の心に一寸の嘘は無いと悟る。

愛されていると思う気持ちは、どこまでも女の子を強くする。

箱からチョコを1つ取り出し、元あった場所に戻す。

口の中に放り込んだチョコはとても美味しくて、ズタボロだった心を少しだけ修復してくれた。

机の上に綺麗に並べられた付箋を見つけ、
1枚取って、チョコのお礼を書く事にする。
きっと、彼はこんな付箋でも大事に取っておいてくれる筈。

『美味しいチョコをありがとう。
一瞬で私を幸せにしてくれました。

             果穂』

そして、そっとチョコの箱に貼り付ける。

彼がもし疲れてチョコに手を伸ばした時、
この付箋に気付いて、少しでも癒やしてあげられたらいいな。
そんな気持ちを込めて付箋を貼った。