社長室に通されて、果穂は所在無さげに黒光りする長ソファに腰を下ろす。

「悪いけど、私は貴方を認めないわ。
もう気付いてると思うけど、私は堀井社長が好きなの。
入社してからずっとよ。
彼に認めて貰いたくて、がむしゃらに働いて来たの。
それなのに、貴方みたいな能天気なのほほんと生きて来た様な人に、
横から掻っ攫われるなんて、思ってもみなかったわ。」
気持ちを隠す事なく戸川は果穂に言い放つ。

「その可愛い顔の下で、どんなあざとい方法を使ったのかしら?」

果穂は、グサグサと刺さる言葉のナイフを、両手をぎゅっと握りしめて、ただ、泣かない様に堪えるしか無かった。

彼女の様に思う人はきっと他にも沢山いる筈…。

「貴方、何にも言い返さないの?
私から好き勝手言われて悔しく無いの?」
イライラした口調で、戸川は果穂を睨み付ける。

果穂はパッと顔を上げて、戸川を見つめる。

「貴方と同じ意見を持った人は、多分たくさんいらっしゃると思います。
翔さんは、それほど魅力的で素敵な人だから…。
だから、いろいろなご批判やご意見は甘んじて受けるつもりでいます。」
冷静さを装って、ゆっくり丁寧に話す。

ただ、緊張の為か握りしめた手が氷のように冷たい。

「そう。じゃあ、早く別れて頂戴ね。
身の程知らずだったって早く気付くべきなんじゃ無いかしら。」

「申し訳ないんですが…、
 私から離れるつもりはありません。
翔さんが私を必要としてくれる限り、
私は側に居たいと思っています。」

果穂は揺るぎない、強い意志でそう伝える。

翔から愛されている自信が果穂をそうさせるのか、元々持っている芯の強さなのか、
果穂自身も分からないけれど、

誰かに何か言われたぐらいでは、 
ぐらつかない、2人の強い絆は確かにここにある、と果穂は思う。