あの社長が健気に片付け作業を手伝っている。カウンターを布巾で拭きガラス扉まで吹き上げている姿は、衝撃的だった。

会社ではカリスマ的存在そのもので、
飲み終わったコーヒーカップ一つ、
秘書の新田は、持たせない程の徹底振りをみせていた。

今、ここに居るのはプライベートな社長だと言う事だ。
忙しいのにも関わらず妻の為に片付けに駆けつける。

もしかしたら、俺に牽制の意味もあるのかもしれない。と、森元は思った。

普段は見せない柔かな笑顔を、彼女にだけは見せる。
この社長の素の姿を垣間見る事が出来、森元心躍る気持ちで、帰路に着く。

淡々とした憂鬱な毎日を変えてくれそうなそんな予感。
この会社に入って良かったと、心から思った。