『うちの妻は、自分の価値をまったく分かって無いんだ。何でもかんでも与えたがり無防備で他人を信じて疑わない。
そこが良いところでもあり、心配でもあるんだ。』
と、社長が言っていた通りだ。

そして、完成した商品を持って、フワッとした笑顔と共に彼女は戻って来る。
今日こそは代金を払おうと、森元はポケットで小銭を握りしめ意気込む。

「お待たせしました。
温かいうちに召し上がって下さい。」
満面の笑顔に戸惑いながら、
トレーからホットチョコレートを取り上げ、すかさずトレーに代金を乗せようと試みるが、
既のとこでかわされて、
要らないと首を横に振る仕草をする。

「お題は結構です。
会社の方には主人がいつもお世話になってますから。」
そうにこやかに微笑み、また足速にキッチンカーへと戻って行く。

森元は、呆然とお金を握りしめ、ただ立ち尽くす。

「お疲れ様。
君もうちの妻には敵わないみたいだな。」
パッと振り向くと、社長の翔がそこに居て内心驚く。

こんなに近付かれても、まったく気配を感じなかった…やはりこの男、只者では無い。

「不審者は現れ無かったか?」

「はい、特に該当者は見かけませんでした。」
まるで敬礼して隊長に報告するかの様な素振りで森元は話す。

「ありがとう、今日はそのまま直帰でいいから。」
そう言って社長は言葉少なに、キッチンカーの方に歩み出す。

「お疲れ様でした。」
森元は一礼して、しかししばらくその場に止まり2人の姿を観察する。