「えっと、私、果物は何でも好きなんですが…やっぱり苺です。」
「苺、可愛いですよね。奥様にお似合いです。」
苺がお似合い?
どう言う事だろう、と首を傾げながら果穂は思う。
ニコニコの美咲の笑顔にたじろぎながらも、
デコレーションの極意について聞こうとノートとペンを持ち話し出す。
「あの、ウェディングケーキなんですけど、本物のスポンジで2段とか3段とか作るには、やっぱり大変なんですか?」
「そうですね。スポンジは柔らかいのでやっぱり重さで、沈んだり傾いたりしてしまうので、2段までが限界なんです。
ただ、便利なアイテムがありまして、
1段目のケーキに刺して固定させるお皿があって、これを使うと3段まで大丈夫です。」
最近のウェディングケーキ事情から、
作り方やコツなどをいろいろと美咲は教えてくれる。
果穂は沢山の疑問や質問を繰り返し、一つずつ丁寧にノートに書き込み、理想とするウェディングケーキをスケッチブックに描いていく。
「当日、ゲストの方に食べて頂くにはやっぱり均等に切り分け易いスクエア型をお勧めしますが、3段ケーキでもスクエア型で出来ますよ。」
美咲も、果穂の要望に応えいろいろと持っている知識を惜しみなく出してくれる。
「私が社長と奥様のウェディングケーキに携わる事が出来るなんて、本当に光栄です。」
そう言ってくれる美咲の熱い視線が、
果穂はなんだか歯痒い。
そんな2人をガラス越しで見守りながら、
翔と優斗は雑談する。
「結婚式の準備で忙しいだろうに、
自分でウェディングケーキを作りたいなんて、果穂さんはよっぽどのスイーツ好きなんだな。」
「果穂はスイーツで作られていると言っても過言じゃないから。」
笑いながら優しく見守る、
夫の翔も相当甘いなと、優斗は苦笑いする。
「お前がそんな風に笑うのって貴重だよな。」
「どう言う意味だ?」
真顔になって、優斗を見返し翔が問う。
「いや、良い傾向だよ。
お前が人間身を帯びて、世の中では愛妻家だって良いイメージもついたし、
会社の株も上がってきた。
ついでに売上も伸びてるし、良い事尽くめで、何も言う事は無い。」
そう言って、ガラスの向こうの楽しそうな女子達を観ながら優斗は微笑む。
「お前は?お前自身の幸せはどうなんだ?
俺はお前を、会社と仕事に縛り付けるつもりは無いぞ。」
この男、やはり侮れないな。
部の誰も見破る事の出来ない優斗の心の奥まで、まるでお見通しだと言うような目で見てくる。
「何の事だ?」
優斗も勘がいい方だから、翔の目線に気づきながらあえて受け流すようにシラを切る。