戸川が突然、はぁーっとため息を吐いて話し出す。
「正直言って、
貴方が奥様だと聞きがっかりです。
どこかの御令嬢や社長と釣り合う様な肩書きの方ならば、私も諦めがついたのですが……。」
チラッと果穂の方に冷たい視線を投げかけて、
「こんな…、普通の娘を選ぶとは……。
失礼ですが、おいくつですか?」
鋭い目線で食い入る様に見られ、
果穂はまるで蛇に睨まれたカエルの様に縮こまる。
「25歳です……。」
なんとかそれだけ伝えて俯く。
「まるで学生上がりの新卒採用の人みたい。貴方に社長は不釣り合いだわ。」
怒りとも取れるナイフのような言葉が飛んできて、果穂の綺麗な心にグサっと刺さる。
言い返したいのに何も言葉が見つからない…。
今にも涙が出そうになり、グッと堪えるだけで精一杯だった。
エレベーターは無常にも、38階のフロアに到着する。
コツコツと、ヒールの音を響かせて歩く戸川の後ろを、そっと俯き歩く果穂は、まるで死刑台に登る罪人の様に、気分が沈み何も考えられなくなっていた。
フロアの電気は一部消されていたが、
まだ数人の社員が残っていた。
俯いてはダメだと気持ちを奮い立たせ、
果穂は頑張って笑顔を作る。
「お疲れ様です。」
と、帰宅する社員数名に頭を下げて笑顔を向ける。
皆んな翔さんの大切な社員だ。
感謝と労いの心を持って、
すれ違う1人ずつに頭を下げて
「お疲れ様です。」と言葉をかける。