「お待たせしました。
で、私に何の用ですか？」

ホテル側に用意して貰った応接室のソファに座りながら翔は事務的に淡々と話す。

「私、貴方が結婚したと聞いて、
どうしても信じられなくて…。
貴方は誰のものにもならないって信じてたのに。」
ハンカチを目尻に当てて涙を拭く女に、異様な怖さを感じる。

「ところで何故、この場所が分かったのですか？」
怪訝に思い単刀直入に聞く。

「貴方の事なら何でも知ってるの。
どこに住んでて、誰と結婚して、今日は結婚式だったとか…貴方のすべてを把握していたいから。」

どう言う事だ⁉︎
この女は俺のストカーなのか？
一対一で会うべきでは無かったかと今更ながら気付く。

「何故、俺の事を知る必要が？
貴方は結婚しているんですよね？
俺に執着する必要は無い筈だ。」

「私の事を知ってくれているのね。
そうなの。2年前に父の言いなりに政略結婚して、形だけの旦那はいるわ。
『trattorìa ジージョ』って言えば分かるかしら？
私の旦那の会社なの。貴方のライバル会社よね？」
途端に嬉しそうに話し出す。

「宮崎社長ですね。
彼とはパーティーなどで何度か会った事がある程度ですが…。」
確か、都内で何店舗かのイタリアンレストランを経営していた気がするが、そこまでの興味は無く顔見知り程度でしかない。