そして翌日の日曜日、
私は母に頼まれて衣笠のおばあちゃんのところへ届け物をするために自転車を走らせていた。
北大路通りをおばあちゃんの家の方に進むと長い上り坂が続く。
茜「ここは体幹を鍛えるにはいい坂だよ」
と、独り言をいいながら自転車を漕いでいると私の横をスーッと一台のロードバイクが通り過ぎた。
茜「あれ?樋口くんじゃん…」
と、私はすぐに気がついたが彼は全く気づかずにそのまま走っていった。
ジャージ姿にテニスラケットのケースを斜めに肩にかけていた。
日曜日なのにあんな格好でどこに行くんだろう?
と、気になって少し距離をとりながら必死に付いていった。
そしてほどなく走ると左に曲がり船岡山公園の方へと向かっていった。
私も後を追いかけていったが、通りを曲がったときにはもう姿が見えなかった。
公園の入口までくると彼の自転車が置いてあったので辺りを見回したがやはりその姿はなかった。
私は彼の自転車の横に自分の自転車を停めてしばらく様子を覗ってみた。
すると数分後に彼が走って下りてくるのが見えた。
彼も私に気がつき前までくると、
樋口「あ、えっとぉ……」
と、私のことは認識出来てるようだが名前がわかっていなさそうだったので私から話し始めた。
茜「樋口くんだよね?」
樋口「あ、うん…」
茜「あたし守屋!同じテニス部でしょ?」
樋口「あ〜……うん……」
茜「日曜なのにそんな格好でどうしたの?」
樋口「あ、まぁ……トレーニングて言うか…」
と、ぶっきらぼうに答えた。
茜「へぇ~そうなんだ…」
と言うと…
樋口「お前こそこんなとこで何やってんだよ?」
と、聞き返された。
茜「おばあちゃんのところへ届け物に行くところだったんだけど、樋口くんの姿が見えたから何か…気になっちゃって」
樋口「ふぅ〜ん、そっか……」
と、またそつない返事だった。
樋口「もう、いいかな?まだメニュー始めたばっかだから…」
と、言って走り出そうとした。
私は咄嗟に、
茜「毎週来てるの?」
と、聞くと…
樋口「あぁ…」
と、だけ答えて走り始めた。
私はその背中に向かって、
茜「あたしも来週から来ていいかな?」
と言ってしまった。
彼は一瞬立ち止まり振り向いて、
樋口「あぁ…」
と、頷いてまた走り出しすぐに緩やかな左カーブの上り坂に姿が見えなくなってしまった。
第八話へつづく…