それを見た瞬間



「————っ…!」



あたしの頬に温かい涙が流れる。

それは、紺色の折り畳み傘だった。


傘の持ち手のところに油性ペンで書かれた文字。


『伏見亜希』


伏見くんの傘だ。


「っ…、う……、伏見…くん…」


その傘を握りしめた。

一瞬で理解した。

伏見くんが、助けてくれた。

八神さんに縛られて、動けない伏見くんの助けだった。

伏見くんの笑顔が浮かぶようで。


「あ…りがとう。伏見…くん」


あたしは、なぜか涙が止まらなくて。

フワフワと掴めない気持ちが、少しだけ、少しだけわかった気がした。



———あたし、伏見くんのことが好きかもしれない。




あたしは、傘を開いた。


もう少し、まだ、頑張れる。

あたしは、イジメに負けない。



少し前向きになった気持ち。




でも、麗華にはそんなことは関係ない。
あたしは、麗華の魔の手から、すでに逃れられなくなっているのだから……

麗華の拘束は、強まる一方。

イジメのエスカレートは、止まらない。




イジメは、終わらない。




破滅の時間が、刻々と迫る。