プレゼント—————。
人生ってさ
どこで狂うんだろうね
子供は親を選べない
親は、子供を愛してくれるものなの?
ううん、そうとは限らない
愛されない子供の人生ってさ
狂っちゃうんだよね
子供はさ
苦しさから逃れたくて
いつもいつも虐待なんか受けている自分がいやでいやで、
自分を偽っていくんだよね
そんな子供たちを
手遅れになる前に
——救って欲しいな………
身体が炎に包まれる。
人生、いいことなんて無かった。
—ううん。
あなたが。
あなたが、最後にわたしを労ってくれた。
あたしを慰めてくれた。
———ありがとう———
「ごほっ…ごほっ!」
焼け落ちていく家から、夜風が出てくる。
って、は…!?
夜風の髪の毛はかなりぐちゃぐちゃになり、咳をしながらよろよろと出てくる。
ボロボロじゃん!
「だ、大丈夫!?」
あたしは、夜風を抱きとめた。
夜風は荒い呼吸を繰り返している。
もう…無茶するから……。
どうしてこんなに長く火事現場にいたのよ…。
「もう…!なにしてんの、大丈夫なの!?」
夜風はあたしの腕の中で咳をしている。
「だ…いじょ……う…ぶ……」
夜風はヒューヒューと呼吸をしている。
ダメじゃんそれ…!
それでも動けるようで、あたしとともに走って現場を去った。
どういう体力してんの…。
てか、速い!
あたしは、夜風に引っ張られるようにして走った。
ここらへんは、かなり建物も少ないから、火事が発見されるのは、かなり遅くなるだろう。
あたしたちは、かなり走って、バスに乗った。
バスで一気にあたしの家の近くまで帰る。
そして、公園に入って、ベンチに座った。
夜風は、かなり回復してきていた。
「大丈夫だよ。白波柑奈は死ぬから。」
夜風は唐突に言った。
「うん……。」
あたしは、静かに答えた。
正しいことをしたと思っている。
柑奈が反省してくれたらいいんだけど…
それに、復讐が成功したことを喜ぶ自分が、どこかにいる。
どっちにしろ、あたしを傷つけて追い込んだ人の一人だ。
あたしは、間違っていない…。
「ねえ、夜風。」
「なに?」
あたしは、ずっと聞きたかったことを聞いた。
「百合香って、どこの病院に入院しているの?お見舞いに行きたいんだけど。夜風なら知っているんじゃない?」
夜風はあたしを見つめる。
「そりゃあ、知っているけど…。」
あたしの顔は、ぱあっと輝いたんだろうな。
嬉しかった。
百合香に会いたかった。
「どこ?どこの病院なの?」
夜風が腕を上げる。
「そこ。」
ん?
んん?
あたしは、夜風の指の方向を二度見か三度見した。
夜風が指差しているのは…。
今いる公園の隣にある、総合病院だった。
「ち、近…!?」
なんだ、歩いてここから徒歩2分じゃん。
あたしは、立ち上がって病院に行った。
「あ、ちょっ…、」
夜風がなにかを言いたそうな顔をする。
でも、ごめん、あとでね。
いまは、あたしは一人で百合香に会いたいの。
「また明日!」
あたしは、その場を走り去った。
コンコンコン。
誰もいない病院の廊下にあたしのノック音が響く。
百合香の病室……ここであっているはず。
「はい。」
病室からその声が聞こえてきた瞬間。
あたしは懐かしさに襲われた。
百合香が入院してからまだ数週間しか経っていないけど…。
あたしにとっては、とても、とても懐かしい声だった。
「百合香…?」
あたしは、病室のドアを開く。
「愛香っ!!!」
ベッドの上には、懐かしいあの子が。
思っていたよりも元気そうで、羊毛フェルトの手芸なんかやっている。
百合香は、満面の笑みであたしに微笑んだ。
その笑顔を見ていると、自然とあたしの頬も緩んできて…。
「百合香ーーー!」
あたしは、百合香にフルで体当たりをした。
「ぎゃん!!愛香、愛香重い…!!」
百合香が笑いながらあたしの背中を叩く。
「あはは、これでも体重減ったんだよ。」
あたしは、眉を下げて言った。
ストレスで、食べ物を食べられなくなったんだ…。
百合香は何かを察したのだろう。
真顔になった。
「あのさ……、愛香、あの…。」
百合香は言いづらそうに言い淀む。
「分かってるよ、白神さんたちのことでしょ?」
百合香は泣きそうな顔になった。
「本当に、ごめんなさい!!!」
百合香は、あたしに凄い勢いで頭を下げた。
「あ、あたし…、あの人たちに脅されて…!嫌だったけど、無理矢理裸の写真撮らされて…!!!」
百合香はボロボロと涙を流した。
「あんな脅しなんかに負けるあたしが嫌で…!ごめんなさい!愛香のこと、いじめたりして…ごめんなさい!!」
百合香は強く手を握って頭を下げていた。
百合香の涙が、あたしの手に落ちる。
温かかった。
「ううん、ううん。いいの、百合香。」
あたしの目からも涙が落ちる。
「ありがとう。あたしのこと、庇ってくれて、ありがとう…。」
あたしは、百合香の手をそっと握った。
かわいそうに…百合香。
あたしを庇っただけなのに、奈々美に突き落とされて入院して。
本当に、かわいそうにね…。
ねぇ?百合香。
かわいそうにねぇ……。
「あたしはね、百合香をいじめた奴ら、あたしをいじめた奴らを許さないよ。あいつらは、人間の顔をした悪魔だよ。百合香が入院したって、イジメは止まらない。エスカレートする。あいつらは、百合香のことなんてなんとも思っていないんだよ。酷いと思わない?」
百合香は目を見開いた。
酷いでしょ?
酷いと思うでしょ?
おかしいでしょ??
「ひどい……、じゃあ、あたしがしたことって…、無駄だったの?」
百合香の顔が崩れる。
悔しさに顔を歪めている。
そうでしょう?
そうでしょう?
悔しいでしょう?
「昨日なんてね、あたし、柑奈に倉庫に閉じ込められたんだよ。これ、昨日つけられたアザ。見る?」
あたしは服をめくって百合香に見せた。
百合香が眉を顰める。
「ひ…ひど……」
「ああ、でもね。あたしには味方ができたんだよ!」
あたしは百合香を見て話し続けた。
「夜風。あの、前いじめられていた人!実はね、すごく優しくて強いんだよ!昨日はね、倉庫の鍵をぶっ壊してあたしを助け出してくれた。」
それで、柑奈が鍵を持っているという情報を使って、柑奈が虐待を受けているという情報を使って、柑奈が二重人格だという情報を使って……。
柑奈を追い込んだんだよね。
この情報をくれたのは、夜風。
あたしの、味方。
いくら二重人格でも、あたしをいじめたことには変わりないんだもん。
復讐して、悪いなんてこと、ないよね。
ふふふ…。
百合香の顔が明るくなる。
「よかった…。愛香に味方がいて、本当によかった…。」
あはは、呑気だね、百合香。
そういえば、百合香は、どうしてあたしがいじめられるようになったか知らないんだったよね。
あたしの告発のこと、知らないんだよね、そういえば。
ふ、急に変なこと思い出しちゃった。
いけないいけない。
過去を振り返るのは、危ない。
気持ちが暗くなる。
復讐の、妨げになる………。
「あたしさ、あいつらにやり返すんだ。やられた分を倍返しする。許せないでしょ??復讐してやるんだ。夜風と一緒にね!!!」
あたしの口に自然と笑みが浮かぶ。
百合香、あんたも悔しいでしょ?
あたしが、追い詰めてあげるよ、あいつらを。
許せないよね〜?
百合香。
百合香の口が震える。
やっぱり、許せないよね、百合香?
「ねえ、愛香。」
「ん?なあに?」
聞いてあげるよ。
あたしは、百合香の親友だから。
「本当の復讐って、なんだと思う?」
「は…?」
なにを言うのかと思えば。
なに言っているの、百合香。
「そんなの………殺す…ことに決まってんじゃん。」
まだ慣れない。
「殺す」という言葉。
あたしは、間接的なこともあったけど、今までに6人を死に追いやっている。
これだけしても、慣れない。
どうしても一線を越えられない。
でもね。
これだけは知っているよ。
復讐っていうのはね、殺してこそ意味のあるものなんだ。
殺さないと、この世に存在し続ける。
この世から悪者は、抹消しないと。
なにをしでかすかわからない。
だから、本当の復讐は…
「殺すこと」
ダヨ?
——当然。