【登場人物】
清水愛香 Aika Shimizu
→主人公。イジメのターゲットになり、心を壊される。
佐野百合香 Yurika Sano
→愛香の親友。ターゲットになった愛香を庇おうとするが…。
白神麗華 Reika Shirakami
→大企業の令嬢。美少女。イジメの首謀者……?
渡辺奈々美 Nanami Watanabe
→麗華の取り巻き。前は、愛香や百合香と仲が良かった。
清澄彩綾 Saya Kiyosumi
→麗華の取り巻き。唯一麗華を小学生の頃から知っている。
白波柑奈 Kanna Shiranami
→麗華の取り巻き。家庭に事情がある。
松本聖理奈 Serina Matsumoto
→麗華の取り巻き。タレント。
花田裕二 Yuji Hanata
→奈々美の彼氏。
佐藤力二 Rikiji Sato
→愛香たちの担任の体育教師。
伏見亜希 Aki Hushimi
「……やめてっ…!!」
助けて
そんな言葉が伝わらない。
人間は醜い。
人間は汚い。
人の不幸は蜜の味。
まさに、人間は、その典型。
誰にでもある、心の闇。
それは、連鎖して、止まらなくなる………。
連鎖は、永遠に断ち切れない。
どこまでもどこまでも歪みを生み、捻れる。
闇に溺れた魂は、藁にでも縋る。
その行き先が、たとえ破滅だとしても…。
深紅の復讐が、幕を開ける———。
【愛香side】
普通に過ごしていた。
平和に過ごしていた。
人より少し頭が良くて、優しい友達もいて。
信じて疑わなかった。
この状態がずっと続くと信じていた。
これは、あたしの運命のお話。
普通の高校生活を捨てたあたしのお話。
あたし、清水愛香は軽やかな足取りで校門をくぐる。
明星高校、そして附属中学校。
とある中高一貫校。
人より少し頭の良かったあたしは、中学受験をしてこの学校に通い始めた。
今は4年生。
要するに高校1年生なんだ。
この学校では運動も勉強もそこそこできる方で、容姿もまあまあいいんじゃない?というカンジ。
別に目立つことこそないけど、浮くこともない。
あたしは3年間、それで満足して楽しく過ごしてきた。
「愛香〜!!」
あたしの方に走ってくる小柄なポニーテールの子は、のはあたしの親友、佐野百合香。
「百合香〜!おはよ!」
「愛香ぁ〜!あたし、愛香と離れたくない〜!!」
「あたしも、離れたくないってば。」
「うーん、クラス別れないといいね。」
他愛のない話をしながらクラス名簿に近づく。
あたし、この胸のドキドキ感が昔から好きなんだよね。
「う〜ん…」
百合香が眉間に皺を寄せて名簿を見る。
その目つきは、舐め回しているっていうのが適切な気がする…
般若のような顔をしてるよ?百合香。
「あああぁぁぁぁぁああああ!!!!」
「ぎゃん!?」
百合香の大きな声に思わず変な声が漏れる。
「あったよおぉぉ!!4年B組!!愛香もだよぉぉぉお!!!」
「うん、一旦落ち着こうか…?」
「落ち着いてられるかってんだぁ!やったぁぁぁああ!」
「うるさいよ…百合香…」
ホント、目が血走っているのだが?
周りの人たちが怪訝な顔つきをしている。
…まあ、あたしも百合香と同じクラスになれたのは嬉しい。
「じゃあ、早速教室に行こ………」
「っっだぁぁぁぁぁああ!!??」
私の言葉は百合香の絶叫にかき消された。
え…、、こんどは…何?
「嘘でしょ!?麗華さんと一緒だとぉ!?って、清澄彩綾?白波柑奈ぁ!?松本聖理奈!?」
こだまする百合香の絶叫。
静まり返る校庭。
固まる新1年生。
こちらに顔を向ける眼光の鋭さ学校1の生活指導の教師。
…うん。やばい状況なのは分かった。
つまり、どういうことか説明すると、うちの学校には白神麗華という財閥の令嬢様がいる。
すっごく美人で、栗毛のウェーブのかかった長い髪をしている。
このどこかの漫画か小説みたいな設定はとりあえずスルーしてほしい。
とにかく、そういうことなのだ、うん。
そして、あとの3人は……えっと、
取り巻き
以上です。
もうちょっと詳しくいうと、
清澄彩綾は、どっかの社長の娘。
モデルもやっているらしい。
…知らんけど。
松本聖理奈は、タレント。
結構ドラマとかでの出演経験も豊富らしい。
…知らんけど。
白波柑奈は、美人で、頭が麗華に次いで良くて、運動も得意らしい。
…知らんけど。
あたしはあんまり興味ないからよく分かんないけど、要するに媚び売ってるよくあるタイプの人たちね。
「おい、君たち、何をやっているんだ?」
はい、生活指導の教師来ましたー。
こちとら初日から雷を喰らいたくはないんでね。
「すみません!ちょっと友達が取り乱してしまってー、、」
にっっっっこり笑っていった。
「気にしないでください!あはは……」
あたしは虚しい笑い声を残して、百合香を引きずりながら退散した。
…まあ、この4人が一つのクラスに集まっているってことは…
麗華が何らかの指示を校長にしたのだろう。
それが令嬢様、麗華姫。
「嘘、嘘、嘘、嘘!!あたし、白神さんといると、息苦しいんだよぉ!」
百合香は完全に取り乱している。
なぜか、百合香は白神さんたちを異常に怖がる。
「落ち着いて、百合香。そりゃあ、息苦しくはないけど…白神さんに悪い噂はないでしょ?」
…そうなのだ。
白神さんは、財閥の令嬢さんだが、教師のことは見下したことはないし、品行方正、才色兼備、勉強も運動もできて、バレエが得意で、教師の信頼を一身に集めている。
…多分、いい人なんだ。
「さっ、気を取り直して、行こう?」
あたしは百合香の手をとって教室に入った。
教室は大体三つに分かれていた。
一つは、もちろん、麗華とその取り巻き。
一つは、普通の人たち。
男子の大部分と、女子のあたしみたいな平凡の人たち。
最後に、いわゆる、キモい人たち。
オタクとか、キャラが崩壊している人とか…
あたしはそういう人たちもいいと思うんだけどね…
一軍に視線を戻す。
やっぱりキラキラしている。
いいな。
やっぱり、憧れを抱かずにはいられない。
素敵なキラキラした、次元の違う人たち。
あたしは、そういう生活とは無縁だった。
白神麗華
清澄彩綾
松本聖理奈
白波柑奈
美人で明るくて優しくて…
素敵な4人………
ん?
ちょっと待った。
もう一度、視線を麗華のまわりへ。
周りにいるのは、彩綾、聖理奈、柑奈…
ここまでは問題ない。
問題は、
「奈々美ぃぃい!?」
そう、その人たちに溶け込んで、奈々美がいた。
どういうことか説明しよう。
渡辺奈々美。
元、あたしと同じ地味でも派手でもない人たち。
あたしと百合香も奈々美とは仲が良くて、よく一緒に遊んだりしていた。
あたしと同じく、麗華たちとは縁のない人…
の、ハズなんだけど!
今、目の前にいる奈々美は、
すごく派手になっている。
スカート丈が、とても短いし、クルクル巻いた髪の毛、バッチリメイクした顔。
…この子、本当に奈々美…?
「おはよう、愛香、百合香!」
…身振りが完全にギャルになっているのだが…?
隣で百合香も絶句している。
「お…おはよ…う?」
なぜか疑問形になってしまうあいさつ。
うん、色々飲み込めないのだが。
「清水さん、佐野さん、おはよう。」
この状況で落ち着いた声で挨拶してきたのは
麗華。
「お…おはようご…ざ…います?」
おなじく語尾が疑問形になった百合香が慌ててあいさつする。