The previous night of the world revolution7~P.D.~

今回僕が懐柔し、籠絡するターゲットは、『ブルーローズ・ユニオン』の代表であるセルテリシア・リバニー。

そしてセルテリシアは、女性である。

女性の気持ちを知るには、女性に尋ねるのが一番だろう?

という訳で、セカイさんに聞いてみた。

「しかし珍しいね。ルーチェス君が女の子に興味を持つなんて。男の子の方が好きなんだと思ってた」

それは偏見というものですよ。

「確かに僕は男も大好きですけど、こうしてセカイさんと結婚している以上、女性も好きですよ」

「そうだったね。ルーチェス君はバイなんだった」

えぇ、そうです。誤解しないでくださいね。

「何々?その子可愛いの?おっぱい大きい?」

好奇心丸出しの顔で尋ねるセカイさん。

おっぱいの大きさはそんなに重要ですか?

…まぁ、重要だな。大切なポイントですよ。

「おっぱいはそんなに。ぺたん胸です」

「そっか!ルーチェス君ちっぱい派だもんね」

「はい」

大抵の素人男は、おっぱいは大きいほど良い!と信じているが。

大きければ良いってものじゃないんですよね。

ルレイア師匠が言ってましたよ。おっぱいで重要なのは大きさではなく、味と感度だと。

僕もそう思います。

人生の教訓として、墓場まで持っていきたい。

さて、それはともかく。

「年上の女の子?」

なおも、わくわくと尋ねてくるセカイさんである。

年齢も大事ですよね。

熟女はあまり「美味しくない」って、ルレイア師匠も言ってましたし。

「いえ、年下です」

セルテリシアはまだ小娘ですから。

すると、セカイさんがその返事に反応した。

「ほう、年下!ルーチェス君、君さては…隠れロリだな!?」

いえ、別に隠れてはいないんですが。

堂々とロリです。

「基本的には年上の方が好きなんですけど、今回の相手は偶然年下なんです」

「そっかー。まぁたまにはロリっ子をぺろっと、お持ち帰りしたくなるときもあるよねー」

「そういうことですね」

たまにはこう、趣向を変えてですね。

普段は食べないものをふとした機会に食べると、意外と美味しく感じる現象。ありますよね?

それです。

「そっかそっかー。同僚の、年下の女の子か〜…。ルーチェス君も隅に置けないのう、このこの〜」

「ちょ、突っつかないでください」

セカイさんはにやにや笑いながら、僕の脇をツンツン指で突いてきた。

別に、好きでセルテリシアに近づくんじゃありませんよ。 

側近二人があまりに頑なだから、まずは主人であるセルテリシアから懐柔しようと思ってるだけです。

僕達の『ブルーローズ・ユニオン』での立場を、確固たるものにする為に。

現状、居心地が悪いにもほどがありますからね。
「それで、セカイさん。その年下の女性を…」

「ロリっ子だな?可愛いの?」

セルテリシアが可愛いのかって?

そうだな…。

「可愛さのレベルで言えば、セカイさんの8分の1くらいですかね?」

「何だよそれは〜。嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

何度も言いますけど、僕は別に、セルテリシアが好きで口説こうとしてるんじゃないですからね。

どうせ口説くなら、女性じゃなくて男性が良い。

って、また脱線してるじゃないですか。

「どうしたら楽に口説けると思いますか?」

「ルーチェス君は格好良いんだから、君に『好きです』って言われたら、大抵の女の子はそれだけで落ちると思うよ」

そうですか?それはありがとうございます。

でも、いくらなんでも買い被り過ぎでは?

そんなに単純ではないと思いますよ。そう言ってくれるのは嬉しいですけど。

「残念ながら、それだけでは落ちそうにないんです。身持ちが固いようで」

男の気は全くなさそうだったもんな。セルテリシアは。

免疫もなさそう。

立場上、これまでも彼女にすり寄ってきた男…もしかしたら女も…は、たくさんいたと思うけど。

セルテリシアには未だに、決まった相手はいない。

つまり、近寄ってきた男や女は、全員門前払いを食らってきた訳だ。
 
そう簡単に籠絡してはくれまい。

あるいは、そうやってセルテリシアに近寄ろうとする不届き者は。

あの頭の固そうな側近二人に、ことごとく返り討ちにされてきたのかもしれないな。

つまり僕も、不用意にセルテリシアに近寄ろうとすれば。

側近二人に、拳銃で追い払われる可能性がある訳ですね。

うーん、手厳しい。

僕はこんなにも無害なんですけどね。

「そうかー…。うーん…。じゃあ、プレゼントを用意してあげたらどう?」

と、提案するセカイさん。

プレゼント?

「プレゼントですか…」

「うん。男の子からプレゼントをもらって、喜ばない女の子はそうそういないよ」

ルルシーさんが口にしていた、プレゼント作戦ですね。

エペルとミミニアには効きそうにないけど、セルテリシアはどうだろう。

「ルーチェス君より年下の女の子なんでしょ?だったら余計ウブな子だろうし。プレゼントを渡してあげたらイチコロだよ」

「ふむ…。ウブなのかは分かりませんが、プレゼントは良い案かもしれません」

「でしょー!」

セカイさんに相談して良かったですよ。

プレゼント…プレゼントねぇ。

何が良いでしょうね。プレゼント。

「何をあげるの?指輪とか?ネックレスとか?」

「いきなりそれは重くないですか?」

「えー、そう?私ルーチェス君と付き合ってた頃、いきなりルーチェス君に指輪もらったよ?」

そういえばそうでしたね。

あれ?僕ってもしかして…重い男子だった?

「もっと段階を踏むべきでした。済みません。一目惚れだったので早く結婚したくて」

「良いってことよ、ルーチェス君ったら。相手が喜んでるなら、プレゼントなんて何でも良いんだよ」

そうですか。ありがとうございます。

相手が喜ぶなら…か。

セルテリシアは何をもらったら喜ぶのだろう?

欲しいものがあれば、大抵のものは何でも手に入るであろう彼女が。

今更、他人に何をもらって喜ぶのだろうか?

「何あげるの?お花とか?香水とか?ブランドバッグ…は重いかな」

「ふむ…。まぁ考えておきます」

「うん、頑張れ!応援してる!」

「ありがとうございます」

セカイさんに応援してもらったからには、何としても成功させなければいけませんね。
…と、意気込んだのは良いとして。

冷静に考えてみたら、僕は別にセルテリシアを口説く必要はないのだ。

口説くっていうのはあくまで比喩だ。

別に僕に惚れさせなくても良い。ようは、セルテリシアの信用を得られれば、それで目的は達成されるのだ。

恋人や愛人になる必要はない。友達になれば良いのだ。

この人は信用出来る、心を許せる…と思ってもらえればそれで良い。

じゃあ、その為に何をするのか?

ルレイア師匠の教え。そして、セカイさんのアドバイス。

色々と考えて、僕は計画を練った。

そして。

いよいよ、その計画を実行する日がやって来た。







セルテリシアに近づくには、まずあの厄介な側近二人、エペルとミミニアの追及を躱す必要がある。

僕達のことを全く信用していないあの二人は、僕達がセルテリシアに近づくことを許してはくれないはずだ。

従ってセルテリシアに近づくには、エペルとミミニア両名が不在のときでなければならない。

不用意に近づこうものなら、「セルテリシア様に何の用だ?」と余計疑われることになりかねない。

慎重に動くべきでしょう。

そして、計画実行日である今日は、セルテリシアに近づく絶好のチャンスだ。

というのも、今日の午後から数時間、セルテリシアの側近二人は。

任務で、『ブルーローズ・ユニオン』本部からいなくなるらしいのだ。

このチャンスを逃す手はない。

鬼の居ぬ間に洗濯、ならぬ。

鬼の居ぬ間にナンパ、ですね。

「…よし、今なら…」

僕は『ブルーローズ・ユニオン』本部の窓に貼り付いて、エペルとミミニアが出ていくところを確認し。

早速、セルテリシアのいる、本部最上階の部屋に向かった。

勿論、今日の為に用意した「貢ぎ物」も持参して、だ。

あとは、用意した言葉を頭の中で再度反芻する。

セルテリシアがどのような反応をするかは分からないが…。

とにかく、まずは一歩を踏み出してみなければ分からない。

当たって砕けろの精神で行きましょう。

…いや、砕けるのはちょっと遠慮したいですけどね。

貢ぎ物を片手に、エレベーターに乗り込む。

真っ直ぐ最上階に向かい、エレベーターが開き。

一歩を踏み出した途端、僕は最初の「洗礼」を受けた。
 
「止まれ」

「うわっ、びっくりした」

エレベーターの扉が開くなり、僕を待っていたのはマシンガンの銃口であった。

それで僕を蜂の巣にするつもりですか。

それとも『ブルーローズ・ユニオン』には、味方にマシンガンを向けるのが正しい挨拶である、というルールでもあるのか。

「…何ですか?これは」

「このフロアは、セルテリシア様が許可された者しか入ることは許されない」

マシンガンを構えた強面の構成員が、そう言った。
あー、成程そういうことですか…。

本当に、随分と身持ちが固いんですね。

一応幹部の身分なのに、アポ無しで首領に会うことは出来ないと。

仮に味方相手に、マシンガンなんか向けないでくださいよ。

危ないじゃないですか。

まぁ、撃たれたら避けますけど。

「ここに何の用だ?」

何の用だと言われましても…。

「セルテリシアさんに用がありまして」

「用とは何だ」

「ちょっと一緒にお茶でもしようかと…」

「セルテリシア様にそのような予定はない」

アポ無しだと、会いに来るのも駄目なんですか?

それはまた随分…「お高く留まった」リーダー様ですね。

アシュトーリアさんなんて、アポ無しで突然訪ねても、快く歓迎してくれましたけどね。

上に立つ者として、懐の広さの違いというものを実感しますね。

「だってアポイントを取ろうとしても、どうせ駄目だと断られるでしょう?」

何の為に、エペルとミミニアのいないときを狙って来たと思ってるのだ。

僕がセルテリシアに近寄ろうとしているのを知れば、あの二人のこと、いきり立って拒絶するに決まっている。

しかし。

「現在はエペル様とミミニア様も外出中だ。お二人が不在の間に、何人たりともセルテリシア様に会わせることは出来ない」

本当にお高く留まってますね。

それとも臆病なのか?

側近がいないと、客人に会うことすらしないとは。

客人と言うか、同じ組織の仲間じゃないか。

「ほんの少しの時間で良いですから。折角来たんだから入れてくださいよ。別に忙しくて手が離せない訳ではないんでしょう?」

駄目元だけど、ゴネるだけゴネてみる。

ここまで来て門前払い食らって、「はいそうですか」でむざむざ帰れるか。

食い下がらせてもらいますよ。

どうせ、失うものは何もありませんからね。
しかし。

「駄目だ。不在中は誰も通すなと、エペル様とミミニア様の厳命だ」 

頑固な強面構成員は、断固として譲らなかった。

頭が固い、頭が。

もう少し柔軟に考えることが出来ませんかね。

大体、「エペル様とミミニア様の厳命」って何ですか。

あなたの主人はその二人ではなく、この後ろの部屋にいるセルテリシア・リバニーなのでは?

仕える相手を間違ってませんか?

「ちょっと落ち着いて考えてみてくださいよ。僕は『ブルーローズ・ユニオン』の幹部であって、幹部としてリーダーに謁見したいと…」

「いかなる理由があろうとも、誰も通すなとの厳命だ」

馬鹿の一つ覚えみたいに同じことを繰り返して、強面構成員はマシンガンを構え直した。

これが目に入らぬか、と言わんばかり。

いや、目には入ってますけど…。

味方相手に、しかも僕は腐っても幹部だというのに。

よくもまぁ、平気でマシンガン向けられますね。

「…」

さて、どうしたものか。

折角意気込んでやって来たのに、まさかこんなマシンガンで「歓迎」されるとはな。

無理矢理…突破しようと思えば出来るが。

そんなことをすれば、この強面構成員は任務から帰ってきたエペルとミミニアに、今日のことを報告するだろう。

自分達がいない間に、僕がセルテリシアに近づいた、などと知れば…。

そりゃあもう、怒髪天を衝いて怒るだろう。

それどころか、余計エペル達の警戒心を強めるだけ。

信用を得るなんて夢のまた夢。

…強引な手段には出るべきじゃないですね。

セルテリシアに会うのにアポイントが必要なら、そうしよう。

ここまで来て、むざむざ引き下がるのは残念だが。

身の安全を確保する為には、そうするしかない…と。

思っていたそのとき。

運命の神様なんて信じちゃいないが、その神様が僕に微笑んだ。

「…これは何の騒ぎですか?」

強面構成員の後ろ、重厚な観音扉が開き。

中から出てきたのは、件のセルテリシア・リバニーその人であった。

…おっと、これは…。

どうやら、風向きが変わってきたようですね?
「!セルテリシア様、お騒がせして申し訳ございません」

強面構成員はセルテリシアの姿を見て、急いでマシンガンを降ろした。

「あなたは…。ルーチェスさん?」

セルテリシアは僕の姿を認め、驚いたような表情をした。

…これは、もしかしてもしかしなくても、チャンスなのでは?

この好機を無駄にする選択肢はない。

「はい、ルーチェスです」

「どうしてここに…?」

「えぇ、ちょっと…。あなたとお茶でもしようかと思ったんですが」 

僕は白々しい顔をしてそう言った。

嘘じゃありませんよ。事実ですから。

「この人に止められてるんです。アポイントメントがないと駄目だとか…」

「…」

「それに、エペルさんミミニアさんの許可がないと、このフロアに足を踏み入れることも出来ないとか。…『青薔薇連合会』ではそのような規則はなかったので、知りませんでした」

という、僕の余計な一言がセルテリシアの心に引っ掛かったらしく。 

「…そうですか、分かりました」

一瞬だけ逡巡した後。

セルテリシアは、僕が望んでいた一言を口にした。

「彼を通してください」

マシンガンの強面構成員にそう言ったとき、僕は内心ガッツポーズをしていた。

よし、作戦成功。

「…!セルテリシア様、それはいけません」

「良いから通してください。彼は味方です」

そうそう、心強い味方ですよ僕は。

お喋りしたくなってきたでしょう?

「ですが…エペル様とミミニア様から許可が…」

まだ食い下がる強面構成員。

しかし、セルテリシアは僕の味方であった。

「二人には私から話しておきます。あなたに咎はないと。だから通してください」

「…畏まりました」

そこまで言われて、ようやく強面構成員は折れた。

後で自分が咎められないなら、好きにすれば良いと判断したのだろう。

ナイスフォローですよ、セルテリシアさん。素晴らしい。

お陰で出直さずに済みました。

「どうぞ、ルーチェスさん、こちらに…」

「ありがとうございます。…では、失礼して」

僕は、最初にして一番の難関である「門番」の洗礼を潜り抜け。

悠々と、セルテリシアの執務室に入れてもらえることになった。

ルレイア師匠なら、これを普段の行いの賜物だと言うでしょうね。

僕もそう思います。

やはり普段から善行を積んでおくべきですね。こういうとき、普段の行いが物を言うんでしょう。
 
「失礼します」

僕はセルテリシアに続いて、彼女の執務室に足を踏み入れた。

選ばれし者しか入れないこの場所に、ルレイア師匠よりルルシーさんより先に失礼します。

非常に光栄ですね。
セルテリシアの執務室は、アシュトーリアさんのそれよりも一回り大きかった。   

無駄に豪華な調度品が、まるで見せつけるかのように鎮座している。

…王宮にいたときみたいだな。

アシュトーリアさんに対抗しているつもりなのかもしれないが…やり過ぎると、逆に品位ってものが失われると思うんですが。

これがセルテリシアのインテリアの趣味なんですかね?

それとも、セルテリシアと言うより…彼女よりも権力を持っているであろう、セルテリシアの側近二人の趣味か?

いずれにしても、良い趣味とは言えないな。

しかし、僕はそんな態度などおくびにも出さなかった。

当然ですけど。

「入れてくれてありがとうございます。まさか、幹部クラスでさえアポイントメントがないと会わせてもらえないとは…。『青薔薇連合会』では有り得なかったので」

天然な顔して、ちょっと嫌味を混ぜてみると。

セルテリシアは、自嘲気味に笑って答えた。

「そうでしたか、済みません…。私ももっと、部下や仲間達と距離を縮めたいと常々思っているのですが…」

「それが出来ないのは…もしかして、エペルさんとミミニアさんに止められるから、ですか?」

「…はい」

ふむ。やはりこの人、側近二人に頭が上がらないようですね。

どちらがリーダーなんだか。

「組織の頭たる者、威厳を持って部下に接しなければならないと…」

威厳を持って…ねぇ。

部下に冷たく当たるのが、威厳のある姿ってことですか?

それは間違ってると思いますけど。

「そうですか…。じゃあ、今こうして僕がここにいることをエペルさん達に知られたら、怒られてしまいますね」

「大丈夫です。二人には内緒にしておきますから」

助かりますよ。

じゃあ、それで僕とセルテリシアは今だけ共犯者ってことで。

宜しくお願いします。

「お茶を淹れますね。手土産にお菓子も持ってきました」

「ありがとう」

まずは、セルテリシアに接触することに成功。

あとは…僕の拙い話術を披露するばかりだ。
僕は、自分の分とセルテリシアの分、飲み物とお菓子を用意した。

え?毒は仕込まなかったのかって?

やりませんよ。今回は純粋に、セルテリシアと「仲良く」なる為に来たんですから。

後で咎められるようなことはしたくない。僕の身の安全の為にも。

「はい、準備出来ましたよ」

「ありが…。…?」

飲み物の入ったコップを差し出すと、セルテリシアは首を傾げた。

「これは…?」

どうやら、僕の選択は正解だったらしいな。

セルテリシアは、コップに入った茶色の液体が何なのか知らないようだ。

「知らないんですか?これはコーラです」

「コーラ…ですか」

「飲んだことあります?」

「いいえ…聞いたことはありますけど。飲んだことは…」

やはりな。

セルテリシアに手土産を持っていくに当たって、僕は二つの選択肢を考えた。

いつもの、上等な紅茶と行列の出来るケーキのセットにするか。
 
それとも、紅茶とケーキではなく、もっと世俗的な飲食物にするか。

結局後者を選んだが、それには理由がある。

セルテリシアが、過去の僕と同じ立場に置かれているなら。

きっと、こちらの方がセルテリシアの心を掴むことが出来るだろうと。

そう判断したからである。

「何だかしゅわしゅわしてますけど…これは…」

「炭酸飲料ですからね。さぁ、ぐいっと飲んでみてください」

「は、はい…」

セルテリシアは恐る恐るといった風に、コップを口元に近づけた。

人生で初めてのコーラにビビってるのか、それとも毒物の混入を疑っているのか…。なかなか口をつけることが出来ないようだ。

何事も挑戦ですよ、挑戦。

チャレンジ精神を忘れてはいけません。

僕はお手本を見せるかのように、先にコーラのグラスを呷った。

うん、この口の中に広がる心地良い刺激。

そして、コーラ特有の甘ったるい独特の風味。

これぞって感じがしますね。

先に飲んだ僕を見て、セルテリシアも恐る恐る、グラスに口をつけた。

すると。

「どうですか?」

「え、えぇと…。何だか不思議な味…。ですけど…」

一回、二回、と続けてコーラを口に含む。

「面白い味で…癖になりそうですね」

気に入って頂けたようで良かったです。

炭酸飲料を受け付けない人って、一定数いるらしいので。

「それは良かった。飲まず嫌いでしたか?」

「いえ、嫌いという訳ではなく…。このようなものは全く…縁がなかったんです。飲み物と言えば、紅茶やコーヒーや緑茶ばかりで…」

あぁ、分かる分かる。

「こんな庶民の飲み物は飲んじゃいけない、って言われるんですよね」

「…それは…」

「炭酸飲料なんか飲んだら歯が溶けるから駄目!とか」

これ、僕がレスリーに言われたことです。

今思えば、前時代的にも程がありますよね。

「私は、脳みそが溶けるから駄目だって言われてました」

そんなパターンもあるんですか。

迷信ですよそれは。事実無根です。炭酸飲料への冒涜です。

ゲームや漫画もそうですけど、子供のときにそういうものを過度に禁じられていると。

大人になったとき、盛大に「反動」が来るらしいので。

何事も、適度に経験しておくのが無難だと思いますよ。適度にね。

案の定僕も、自由の身になった途端、昔禁じられていたあれこれを、今はやりたい放題ですよ。

The previous night of the world revolution7~P.D.~

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