「現在『青薔薇連合会』で、アシュトーリア・ヴァルレンシーさんからもらっている報酬の…十倍の額を保証します」

だ、そうですよ。

それはとても「高待遇」な条件じゃありませんから。

「我が社に来てくれたら、今の十倍の給料を払いますよ」なんて言われたら、もうそれだけで転職の理由になりそう。

が、俺にとっては笑止千万も同然。

「金で動く俺じゃないんですけど」

たかが十倍の報酬くらいで、俺の心が動くとでも?

一瞬でもそう思ったのなら、あなたは取るに足りない小娘だ。

「分かっています。報酬はおまけのようなものです…。私があなたを『ブルーローズ・ユニオン』に誘うのは、あなたを敵に回したくないからです」

…ほう?

「私はアイズレンシア・ルーレヴァンツァ…さんを押し退けて、『青薔薇連合会』首領の座につきます」

まるで決定事項のように言う。

「そうなったとき、ヴァルレンシー派だったあなた方は、今よりずっと苦しい立場に置かれるでしょう」

そりゃもう、肩身の狭い思いをすることになるでしょうね。

今の『青薔薇連合会』の準幹部以上は、全員新『青薔薇連合会』派…。ヴァルレンシー派の人間の集まりだ。

しかし、そこにサナリ派代表のセルテリシアが首領につくようなことがれば。

現在の準幹部以上の人間は、全員今の立場を追われる。

早い話、全員クビだ。

それどころか、クビにされるだけで済めば良いが。

「特にルレイアさん、ルルシーさん。あなた方はサナリ派の中でも非常に危険視されています」

「…そうなんですか?」

「はい。サナリ派が『青薔薇連合会』の覇権を握ることになったら、あなた方が代表となって反乱を組織するのではないかとも…」

あぁ、はい。その通りですね。

バレてた。

「私としては、そうなって欲しくありません。ルレイアさんと戦いたくないし、ルレイアさんを殺せと部下に命令したくもありません」

もしそうなったら、血で血を洗う争いになることは間違いないでしょうね。

「『青薔薇連合会』を追放されたら、あなた方の安息の場所が失われるはずです。それどころか…サナリ派が実権を握った新生『青薔薇連合会』に追われて、国内にもいられないかも…」 

「…ふむ」

その可能性はありますね。

『青薔薇連合会』から追放され、『青薔薇連合会』の人間に命を狙われる。

そうなったら、これまでのようにルティス帝国でのんびり、ルルシーとイチャイチャライフ…って訳にはいきませんね。

ルティス帝国どころか、アシスファルト帝国や、箱庭帝国に逃げたとしても心許ない。

どれだけルティス帝国本国と離れていようとも、その国に『青薔薇連合会』の支部が一つでも存在するなら。 

完全に『青薔薇連合会』の魔の手から逃れることは出来まい。

成程、万が一セルテリシアが首領になることになれば、そういう危険も生まれるんですよね。

そうなると、俺とルルシーの安息の場所が奪われることになる…。

「でも、今のうちに『ブルーローズ・ユニオン』に寝返ってくれれば…そのリスクは避けられるんです」

…そうですね。

あなた、交渉上手いですね。

「闇の世界から足を洗って、光の世界に…」なんて戯言を抜かしていたブロテとは大違いですよ。