それなのに、ルルシーは。
「…」
きちんとノックをしてお邪魔したというのに、そんな礼儀正しい俺を見ようともせず。
「またか…」みたいな顔で、無言で視線を逸らしていた。
ちょっとルルシー?こっち見てくださいよ。
俺の素晴らしい礼儀作法ですよ。
舞い上がる土煙を、鎌を一振りして払う。
視界は開けましたね。
さぁ、では行きましょうか。
「こんにちはー、ルレイアですよ。誰かいます?」
「お前な…。挨拶をするなら、玄関を壊す前に挨拶しろよ…」
え?ルルシー今何て?
別に良いじゃないですか。どうせお邪魔させてもらうんだし。
すると。
「ひっ…!」
玄関をぶち壊し、あ、いや丁寧に「ノック」して入ってきた俺を見て。
エントランスにいた自警団員の男が一人、腰を抜かして座り込んでいた。
おぉ、丁度良いところに人が。
俺はつかつかと歩み寄り、その団員の胸ぐらを掴んだ。
「ひぃっ…や、やめて。助け…」
びびってるところ申し訳ありませんね。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「や、やめてくれ。助けてくれ!死にたくない…!」
あ、これ面倒臭いパターンだ。話通じない系。
俺がこんなに丁寧に質問してるというのに、何故まともに答えてくれないのか。
俺以外、皆無礼なのでは?
仕方ないから正気に戻してあげようと、俺は鎌の柄で団員の男の顔面をぶん殴った。
折れた歯が何本か宙を舞って、壁に叩きつけられていた。
おっと。ちょっとやり過ぎたか?
気絶でもされたら、起こすのが面倒だ。
しかし幸いなことに、腫れ上がった顔を晒しながらも意識はあるようで。
団員の男は、恐怖に怯えた顔で俺を見上げていた。
全く。帝国自警団の団員ともあろう者が、何とも情けない顔だ。
「おいルレイア、やり過ぎるなよ。死なれたら面倒だ」
と、釘を刺すルルシー。
「分かってますって。ちょっと尋ねるだけですよ。例の情報が本当なのか…」
俺は、再び団員の男の胸ぐらを掴み上げた。
「さて、もう一度聞きますね。ちょっと質問があるんですけど、帝国自警団が…」
と、俺が言いかけたそのとき。
「や、やめて!!」
「…あ?」
甲高い声がして、誰かと思って振り向くと。
いかにもひ弱そうな、そして頭の悪そうな女が立っていた。
拳銃を両手で握り、銃口をこちらに向けている。
…ほう。
この俺に拳銃を向けるとは…随分良い度胸だ。
拳銃など、恐れるに足らない。
おまけにこの女、足はぶるぶる震えているわ、腰は引けているわ、目は怯えているわ。
とてもじゃないが、引き金を引く度胸はあるまい。
馬鹿め。
その拳銃は玩具か?
「や、やめて。その人を離して!」
「…離さなかったら?」
「は、離さなかったら…。う、撃つわ…!」
などと、意味不明な供述をしており。
俺は胸ぐらを掴んでいた男を、ぶんと放り投げた。
お望み通り、離してやりましたよ。
その代わり…あなたが俺の相手をしてくれるんですよね?
「…良いこと教えてあげましょうか?」
俺は、助っ人に入ったその女の拳銃の銃口に、片手で包み込むように触れた。
「撃つぞ、って脅してる間に…一発撃ってみたらどうです?」
「…!」
目を見開いた女の首に、俺は手をかけた。
離せと言ったから、離した。
じゃあ、代わりにあなたが俺の質問に答えてくれるんですよね。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど…」
「こ、こんなことして…ただで済むと思うの…!?」
…あ?
ぶるぶる震える手で銃口を向けながら、超絶下手くそな脅しをかけてきた。
「そ、そっちがその気なら…じ、自警団だって、容赦はしな…」
「…ねぇ」
俺はその女の顔面に、鎌の刃を添わせた。
その素晴らしい切れ味に、女の皮膚に赤い線が走った。
こんなことをして、ただでは済まない?
帝国自警団も容赦をしない?
…それが何?
「今、俺が尋ねてたんですけど」
「…え…」
え、じゃないんですよ。
下らない脅しなんてどうでも良い。
それより…俺の質問に答えろ。
次の瞬間、女の顔が思いっきりのけ反った。
何のことはない。
鎌を持ってない方の手で、俺がぶん殴ってやったからだ。
血飛沫が宙を舞い、震える手で握っていた拳銃が吹っ飛んで、壁に当たって落ちた。
ちゃんと握っておかないからさ。唯一の武器を落とすんだよ。
「さぁ、これで目が覚めました?」
「う…うぅ…」
渾身の一撃を受けた拳銃女は、目を白黒させて呻いていた。
たった一発で伸びてしまうとは。お前、本当に帝国自警団の団員か?
さっきの男と言い、帝国騎士団より軟弱だな。
「質問に答えてくださいって、さっきから何度も言ってるのに…」
しかも、全然難しくも何ともない質問なんですよ。
はい、かいいえ、で答えられる簡単な質問。
それなのに、何故か聞いてももらえない。
「人の話はちゃんと聞きましょうって、小さい頃教えられなかってんですかね?ねぇルルシー」
「…お前がそれを言うか。世も末だな」
え?ルルシーあなた、今何て?
聞こえなかったことにしよう。
「伸びてるところ悪いんですけど、答えてもらえませんか。帝国自警団に、」
と、改めて拳銃女に尋ねようとしたら。
今度は。
「マリアーネから離れて!!」
再び甲高い声がして、またしても俺の質問は中断させられた。
…次から次に。横槍が入る。
しかも、やって来たのは帝国自警団の大物。
「…ブロテさんじゃないですか」
俺達の間に割って入ってきたのは。
帝国自警団団長、ブロテ・ルリシアスその人であった。
来るの遅くないです?
「もう一度言う。マリアーネから離れて!」
だ、そうですよ。
ブロテは片手にレイピアを持って、その切っ先を俺に向けていた。
この拳銃女に比べたら、百倍は腰が据わってるな。
手も足も唇も、全く震えていない。顔には怯えではなく、怒りが滲んでいる。
さすがは帝国自警団団長といったところか。
ってか、この拳銃女。マリアーネって名前なのか。
帝国自警団のマリアーネ…と言えば、名前を聞いたことがある。
あぁそうだ、思い出した。
「ルルシー。この女、確か帝国自警団の団長代理やってたんじゃなかったですか?」
「あ…?そうなのか?」
ルルシーは覚えていないご様子。
まぁ、死ぬほど影の薄い団長代理だったからな。
こんなビビリ女だったとは。そりゃこんな女に自警団の団長代理なんか任せてたら、自警団の影が薄くなるのも当然というものだ。
「こんな腰抜けが団長代理…。情けない女ですよ。自警団、よく潰れなかったものですね」
マフィアの幹部相手に、腰が抜けて引き金も引けないほど肝の小さい女が。
本人も自覚はあるのか、図星を指されてマリアーネは泣きそうな顔になった。
すると。
「…これ以上、マリアーネを侮辱したら許さない」
激しい怒りを滲ませて、ブロテは力強くレイピアを握り締めた。
…ほう?
「腰抜けを庇うんですか?」
「マリアーネは腰抜けなんかじゃない。ルティス帝国を留守にしていた私の代わりに、立派に自警団を守ってくれたんだ」
腰抜けなんかじゃない(笑)。だって。
面白い冗談ですね。
「マリアーネを侮辱しないで。その子を離して!」
さっきも似たような台詞を聞いたな。
「離さなかったらどうなるんです?」
「…死ぬことになるよ」
成程。
さっきより遥かに、面白いお返事ですね。
「コントのつもりですかね?ルルシー。俺達死ぬことになるらしいですよ」
「お前が挑発ばかりするからだろ?離してやれ。どうせその女は何も知らないだろ」
「ですね」
ルルシーがそう言うなら、じゃあその通りにしますよ。
俺はマリアーネを放り投げて、ブロテに返してやった。
ベッドの上では別として、俺には婦女子をいたぶる趣味はないからな。
ベッドの上では別として、な。
「マリアーネ…!しっかりして」
放り投げられたマリアーネを、ブロテは必死に抱き起こしていた。
「ぶ、ブロテちゃん…。私…ごめんなさい、役に立てなくて…」
「そんなことない。マリアーネはいつも精一杯頑張ってくれて…」
噴き出すかと思った。
何の冗談ですか?
「必死に無能を庇って、団長って大変ですね。お前みたいな役立たずはクビだ!って言ってやれば良いのに」
と、俺は思わず本音を溢してしまった。
しかし、ブロテは耳聡くそれを聞きつけ、キッ、と俺を睨んできた。
おぉ怖。
「黙って。君には関係ない!」
「はいはい、そうですね」
その通り。自警団が、ブロテが無能を庇いたいんなら、好きにすれば良い。
馬鹿だなと思うが、俺には関係のない話だからな。
つくづく、俺は帝国自警団の人間じゃなくて良かった。
俺はこんな、拳銃を引くことも出来ない無能な腑抜け団長代理のもとで働くつもりはないし。
そんな腑抜け女を団長代理に指名し、今に至ってもこうやって庇い続け。
自分は悠々自適に外国留学していた、無責任な団長であるブロテのもとで働くつもりも、全くない。
俺の上司はアシュトーリアさんで良かったー。
世の中は無能が多過ぎる。
ついでに言うと、礼儀というものを知らない連中も多過ぎる。
俺を見習ってくれ。超有能で、しかもとっても礼儀正しい。
まぁ、帝国自警団はブロテの組織なんだから、ブロテの好きなようにすれば良い。
ただ俺は関わりたくないってだけ。
…そんなことより。
俺はブロテに聞きたいことがあっ、
「…どうしてこんな酷いことが出来るんだ」
…。
ブロテはゆらりと立ち上がり、再びレイピアの切っ先を向けた。
…俺はいつになったら、この女にまともに話を聞いてもらえるんだ?
「俺、何か酷いことしましたっけ?」
「白々しいことを言うな」
あ、はい済みません。
「何の罪もない人を…こんなに傷つけて!」
「…ルルシー、俺何か悪いことしました?」
「お前の常識でどうなってるのか知らないが、人様の玄関をぶち壊し、中にいる人間を二人もぶっ飛ばしたら、普通は警察呼ばれるからな」
ルルシーは、真顔で俺にそう言った。
えっ。最近の世の中ではそうなってるんですか?
「君は元帝国騎士なんだろう…?人を守る為に戦ってきたんだろう?いくら裏切られたとしても…その魂まで外道に落ちるのは、それは間違いじゃないのか」
「…」
「本当は、人を平気で傷つけることが間違いだって分かってるはずだ。自分が味わった痛みを、他人にまで押し付けるなんて…」
ガンッ!!と凄まじい音がした。
これにはブロテも言葉を詰まらせ、黙り込んだ。
何の音かと思ったら、俺の死神の鎌が床にめり込んだ音だった。
「…知った風な口を聞かないでもらいたいですね」
アシスファルト帝国で、悠々自適に10年も留学してたような奴が。
俺や、俺達のような世界の最下層にいる人間が味わってきたモノを、何も知らない奴が。
「他人に痛みを押し付けるなと言うなら、他人の痛みを勝手に語るな」
お前のものじゃないだろう。勝手に自分のもののように語るな。図々しい。
何様のつもりだ。
更に、ルルシーも。
「…お前が俺達をどう思おうと勝手だが、ルレイアの心の中に土足で踏み入ることは許さない」
珍しく、殺気を滲ませた冷たい声だった。
その声もとても魅力的。
俺とルルシーの気迫に気圧されてか、ブロテは口を噤んで一歩引いた。
しかし、そこの腰抜け女と違って、怯んで身体が固まらないだけ度胸がある。
「…そうだね、それは悪かった…。だけど私にも、守るべき大切なものがあるんだ。だから、仲間を侮辱するのはやめて」
その腰抜けが、ブロテの守るべき大切なもの、だって?
『M.T.S社』のリーダーや、奴らの新兵器とやらも?
笑わせてくれる。
「…理解出来ませんね」
下らない大切なお仲間を守りたい。それはまぁ良い。
いくら無能な役立たずでも、ブロテの大事なお友達(笑)なら、守る価値があるものなんだろう。
だが、何故それが『M.T.S社』を庇うことに繋がるんだ?
そもそも本当にここに『M.T.S社』のリーダー一味がいるのか、俺は未だにそこを尋ねさせてもらえな、
「それなら仕方ないね」
…あ?
「君達が私の仲間を傷つけると言うなら…私も、もう容赦はしない」
まるで、これまで容赦していたかのような言い方。
…ほう。
随分と俺を…甘く見ていたようだな?
「容赦しないなら、どうするんですか?」
「…こうするまでだよ」
ブロテはスッと片手を上げた。
すると、途端に。
ブロテの周りに、数人の自警団員が現れた。
何だか、突然人数が増えたんですけど。
別に人数差などどうでも良い。相手が百人だろうが千人だろうが、鎌の一振りで薙ぎ払える。
…しかし。
人数差のことより、俺が気になったのは。
現れた自警団員が揃って持っている、無骨なショットガンみたいな銃だった。
俺の専門は鎌なので、アリューシャみたいに銃には詳しくないのだが。
これでもマフィアの端くれ、あらゆる武器を目にしてきた。
が、そのショットガンもどきは…これまでに見たことがなかった。
何だ、あれは。
「…あの銃は…」
ルルシーも気づいたようで、怪訝な顔でショットガンもどきを睨んでいた。
ルルシーも初めて見るらしい。
『青薔薇連合会』の幹部として、武器には詳しいはずなんだがな。
そんな俺達でも初見ってことは、その銃は帝国自警団が独自に開発、製造しているものである可能性がある。
帝国自警団が独自に武器を作ってる、なんて話は聞いたこともないがな。
それより、もっと現実的な可能性がある。
あの見覚えのない、ショットガンもどきこそが。
俺達が追っている『M.T.S社』が所有する、謎の新兵器である…という可能性だ。
…成程。
帝国自警団が何故、マフィアである『M.T.S社』の秘密武器を所有しているのか。
その答えは明白である。
じゃあ、『M.T.S社』のリーダーと幹部数名を、帝国自警団が匿っているという話は本当なのだ。
…多分。
匿ってくれるお礼として、あの新兵器を帝国自警団に献上した。
そう考えれば辻褄は合う。
…が、納得は出来ない。
仮にも帝国の正義を謳う自警団が、マフィアの武器を受け取り、そのマフィアを匿うような真似をするだろうか。
ブロテが甘ちゃんな性格であるのを良いことに、上手く言いくるめたのだろうか?
それにしても、そんな理由で『M.T.S社』のリーダーを匿うなんて。
いくらなんでも、ブロテが馬鹿過ぎるだろう。
ブロテは確かに甘ちゃんだし、すぐ騙されて適当な噂を本気にするけども。
しかし、まるっきり馬鹿って訳ではないはず。
仮にも、アシスファルト帝国に十年近くも留学していたという実績はあるのだから。
シェルドニア王国のハゲサシャに比べれば、脳みその容量は多いはず。
そんなブロテが、何故『M.T.S社』の口車に乗るようなことに…。
…やはり納得出来ない。
「…あなた達、何故そんな武器を、」
と、俺が尋ねようとしたら。
ブロテは再び、無言で片手を上げた。
すると、ブロテを守るように立ち並んだ自警団員の皆さんが、一斉にショットガンもどきの引き金を引いた。
射出されたのが弾丸だったなら、鎌を一振りして弾き返してやるつもりだった。
しかし、それは出来なかった。
聞き慣れた拳銃の発砲音とは、似ても似つかない。
ジュッ、と焦げるような音がして。
ショットガンもどきの銃口から、透明な光線のようなものが射出され、俺とルルシーの足元に放たれた。
俺達は咄嗟に後ろに飛び退いて、その謎光線を避けた。
真っ赤に焼け焦げた床から、プスプスと黒く細い煙が立ち昇っていた。
さしもの俺も、これには少々意表を突かれた。
ルルシーなんて、驚愕に目を見開いている。
…成程、そういうことでしたか。
これが、『M.T.S社』が所有し、『霧塵会』相手に売買していた謎の新兵器か。
…どんな面白い玩具が出てくるかと思ったら。
予想以上に面白いブツが出てきて、不覚にも胸が高鳴りますよ。
帝国自警団ともあろう者なら、やはりそう来なくては。
久々に、俺を楽しませてくれそうじゃないか。
ぶっ飛ばし甲斐があるというものですよ。ねぇ?
俺はそのブツを見て、内心、非常にわくわくしていたのだが。
対するブロテは、厳しい顔でこちらを睨み。
「…今のは、わざと外した」
と、三下みたいな台詞を吐いた。
はぁ、そうなんですか。
もっと気の利いたことは言えないのか?
武器は格好良いのに、その持ち主がダサいなんて。
折角の新武器が泣いてますよ。
「次は当てるよ。今なら逃げても追わない。大人しく帰って」
まるで、自分達の方が優位に立っていると言わんばかりの台詞。
ブロテにはあの新兵器があるから、それだけで勝ったつもりか?
慢心というものですよ、それは。
武器の性能差だけで戦況を決めることは出来ない、と習わなかったか?
「…ルルシー、あの武器…」
「…あぁ。あんなの…初めて見た」
びっくりしますよね。
シェルドニア王国の『白亜の塔』にも驚いたけど。
まさか、レーザー兵器なんてものを持ち出してくるとは。
いやぁ世界は広い。
しかもそんな武器が、ルティス帝国に存在するとは。
流行の最先端って奴ですかね。
次はレーザー兵器ブームが来るのかも。
冗談ですけど。
いやはや、とても面白い。
そういや、『M.T.S社』の武器庫に単身乗り込んだルーチェスの胸に、焦げた穴が空いていたっけ。
あれはもしかして、このレーザー兵器を食らった結果なのだろうか。
見たところ、このレーザー兵器。床を一瞬で焦がすほどの威力はあるようだが。
そんなレーザー光線を食らって、何で服に穴が空いただけで、ルーチェス本人はピンピンしていたのか。
その謎は残るが、しかし今はそれどころではないな。
生まれて初めてのレーザー兵器を前に、俺とルルシーは。
さすがにこれは分が悪い、とにかく一度退いて、アイズ達に相談して作戦の立て直しを…。
…すると思いました?この俺が。
とんでもない。
「…一応聞いておくが、ルレイア。撤退する気は…」
「え?ある訳ないじゃないですか」
「…まぁ、お前はそう言うと思ってたよ」
折角、敵の新武器を相手に跳梁跋扈するチャンスなんですよ?
撤退して作戦の練り直し…なんて、そんなつまらないことしたくないでしょう。
初見だからこそ味わえる新鮮感というものを、存分に体験させてもらいましょう。
いやぁ、胸が高鳴る。
俺は鎌を構え直し、ブロテと向き合った。
「別に気遣いは要りませんよ。当てたきゃ当ててください」
俺、生まれてこの方レーザー攻撃なんか食らったことがないし。
当たってみるとどんな感じなのか、味わわせてくれても良いんですよ?
いや、普通に避ける気満々ですけどね。
当てられるものなら当ててみろ。
「…本気?この武器を舐めてるの?」
「そっちこそ、正気ですか?」
レーザー兵器なんて素敵な玩具をもらって、無邪気にはしゃいでるのかもしれないけど。
所詮はこれも、一つの武器に過ぎない。これだけで戦況を左右することは出来ない。
俺達を一網打尽にしたいなら、核爆弾の一つでも持ってくるんだな。
「この程度で、俺達を止められるとでも?…新しい玩具をもらって嬉しいのは分かりますけど。ちょっとくらい、頭ってものを使ってみてはどうです?」
挑発していくスタイル。
ブロテは、あからさまな挑発に乗るタイプではないが。
しかし、大切な仲間(笑)を二人もぶっ飛ばされ。
ついでにご自慢の新武器までコケにされて、さすがに苛立っていたのか。
「…そう。じゃあ…宣言通り、もう容赦はしない」
珍しく、覚悟を決めたようだ。
そう、そう来なくては。
遊び甲斐がないというものだろう?
「…残念だよ、ルレイア・ティシェリー卿」
と、ブロテは言った。
「何が?」
「私はずっと、君を誤解していた。君は『青薔薇連合会』の幹部。帝国騎士団や諸外国を脅し、無辜の人々に酷いことをしていると思っていた」
あぁ、そうでしたね。
あなたはもう少し、人の言葉を冷静に聞き、真偽の程を自分で判断するということを覚えた方が良い。
「明日地球滅亡するらしいですよ」と言われたら、素直に信じそうな勢いですから。
良く言えば素直。悪く言えばただの馬鹿。
それでよくもまぁ、帝国自警団のリーダーなんか務まるもんだ。
腰抜けと腑抜けしかいないのか。この組織は。
「でもそうじゃなかった。君は元上流貴族で…帝国騎士団四番隊隊長まで務めていた。本当は…君はこちら側の人間だった」
「…」
「そんな君を、みすみすそちら側に行かせてしまったのには…私にも責任の一端がある。申し訳ないことをしてしまったと思ってる」
別にあなたが引け目に感じる必要はないので、そんなこと思わなくて結構ですよ。
虫酸が走る。
「だからこそ、話し合えば改心してくれるかもしれないと思った。根は悪い人じゃないんだから、何かきっかけさえあれば、気を変えてくれると」
「…どうです?俺を改心させられました?」
「無理だ。どうやら君は、かなり深く裏の世界に染まってしまってるようだね」
その通り。
ルルシー以外に俺を説得出来る者がいるなら、是非とも紹介して欲しいくらいだ。
この俺を改心させようなど、傲岸不遜にも程がある。
それは不可能というものですよ。
「だったら…痛い目を見て、分かってもらうしかないね」
「…それで、分からせることが出来ると?」
「一回二回痛い思いをしたら、少しは私の話を聞く気になるんじゃないかな」
成程。それは良い方法だ。
是非とも話を聞かせてみてくれ。
と言うか、人の話をまともに聞かないのはそちらも同じでは?
「そんなルーシッドもびっくりの正義厨のあなたが、何でマフィアをかば、」
「っ、ルレイア!」
ブロテに質問しようとしたところに、ルルシーが声を上げた。
ブロテの部下の一人が、レーザー兵器の照準を真っ直ぐに俺に向けていた。
撃ってくるか。
「ごめん。…少し痛い思いをしてもらう」
そう言って、ブロテは仲間の方を向いて小さく頷いた。
レーザー光線を発射せよ、の指示だろう。
面白い。じゃあ撃ってみろ。
俺に向かって照準を合わせ、カチッ、と引き金を引く。
発射されたレーザー光線が、俺の身体を突き抜ける…、
…なんてことはなく。
俺は、レーザー光線が自分に届く前に、くるりと前転して躱していた。
「…!?」
引き金を引いたブロテのお友達(笑)は、咄嗟に2射目を撃とうと銃口を上げたが。
ブロテのお仲間は、2射目を撃つことは出来なかった。
代わりに、ルルシーの持つ拳銃の発砲音が鳴り響いた。
「あぁっ!」
ルルシーの放った弾丸は、2射目を撃とうとしていた女自警団員の手のひらを貫通した。
血飛沫が舞い、女はレーザー兵器を取り落とした。
「!ユナ!」
それを見たブロテが、悲鳴のような声を上げた。
へぇ、このお友達、ユナって名前なのか。
俺を撃って手柄を上げるつもりが、残念でしたね。