ルルシーなら、絶対そう言うと思いました。
何せルルシーは、俺の行くところなら。
そこが例えシェルドニア王国だろうと、敵マフィアの本拠地だろうが、帝国自警団だろうが。
天国だろうが地獄だろうが、執事喫茶であっても一緒に行く、と言って聞かない人ですから。
…え?執事喫茶には俺が無理矢理連れて行ったんだろうって?
…ちょっと聞こえなかったんですけど。もう一回言ってもらっても?
とにかく、ルルシーは俺がブロテに会いに行くと聞いて、あぁそうですかと引き下がるはずがない。
俺が一ヶ月あまり、帝国自警団に「保護」されていたときも、かなり荒れてたみたいだし。
今度はルルシーも譲らないだろう。
こう見えてルルシーって、結構頑固ですからね。
「…まぁ、ルルシー先輩を差し置いて、俺達が出しゃばる訳にはいかないな」
「この点においては、僕達でも勝てないですよねー」
ルルシーの頑固っぷりと来たら。
あのルリシヤとルーチェスを、二人して苦笑いで引き下がらせるくらい。
ね?どれだけ頑固か分かるでしょう?
でも、俺としては助かった。
勿論ルリシヤとルーチェスのどちらかが相棒でも、頼もしいのは変わらないけど。
ルルシーと比較したら、誰であってもどうしても見劣りしてしまうからな。
それに何より、ルルシーのこの頑固っぷりだ。
もしアシュトーリアさんが直々に「ルルシーはメンバーには加えない」と命令したとしても、恐らく無視するだろう。
本当頑固ですよ。
これには、アイズも説得を試みることなく頷いた。
「分かってるよ、ルルシー。勿論君も奇襲メンバーに加えるから、そんな怖い顔しないで」
「…そうか、それなら良い」
駄目って言ってもついてくるに決まってますもんね、ルルシーは。
それに、確かルルシーも、ブロテとちょっとした面識があるんだっけ。
なら、ルルシーもメンバーに相応しいんじゃなかろうか。
「ルリシヤとルーチェスは、奇襲メンバーには加わらずに、前線の二人に何かあったときの為の予備戦力として後方待機してもらえるかな?」
と、アイズはルリシヤとルーチェスに指示をした。
「よし来た、了解だ」
「お任せください」
後方でこの二人が控えていてくれるなら、俺も遠慮なく暴れられるというものですよ。
…あ、でも今回は暴れる任務じゃないんだっけ…。
…まぁいっか。ほら、俺普段からとっても大人しいし。
たまに一暴れしたって、バチは当たりませんよ。
それに、ブロテには借りがあるからな。
俺をルルシーから一ヶ月も引き離してくれた、そのお礼をする良い機会かもしれない。
「執事喫茶に行ったばかりで、疲れてるかもしれないけど…。宜しく頼むね、皆」
「とんでない。むしろエネルギー充填完了したところですよ」
この間の『M.T.S社』本部襲撃のときは。
リーダーや幹部に逃げられるわ、歯応えのない影武者を差し向けられるわで、不完全燃焼だったからな。
今度こそ逃さない。
死神の鎌からは何人たりとも逃れることは出来ないのだと、哀れな子羊達に教えてやるとしよう。
――――――…正直なところ、これは賭けだった。
それも、危険な賭けだ。
だが、それだけの価値がある行為だった。
『青薔薇連合会』お抱えの情報屋を買収し、『青薔薇連合会』に偽の情報を掴ませる。
そう。ここ帝国自警団で、『M.T.S社』のリーダーと幹部を匿っている、という偽情報を。
『M.T.S社』はマフィアの端くれだ。まかり間違っても、帝国自警団で匿うなんて有り得ない。
こんな情報は嘘に決まっていると、少し考えれば分かるはず。
…普通ならそう思うだろう。
しかし、『青薔薇連合会』には…あの男が帝国自警団に「保護」されたという前例がある。
ブロテ団長は、マフィアの幹部だろうとリーダーだろうと、正当な理由があれば手を差し伸べる人である。
そのことを、『青薔薇連合会』は知っている。
だから、本来なら有り得ない話なのに、「もしかしたら」と思わせてしまう。
でも、実際はそんな事実はない。帝国自警団は『M.T.S社』の人間を匿ってなどいない。
それどころか、『青薔薇連合会』と『M.T.S社』が敵対していることさえ、ろくに知らなかったくらいだ。
この俺でさえ、これらの計画を知らされたときは驚いたものだ。
そんな作戦が本当に上手く行くのか、と。
しかし、俺の「信頼出来る仲間」は、決行する価値があると言った。
本当にこれであの男が「釣れる」かは分からないが、恐らく『青薔薇連合会』から何らかのアクションはあるだろうと。
何より、俺達は折角、切り札となる新兵器を手に入れたのだ。
『青薔薇連合会』がこの兵器の詳細に辿り着く前に、奴らに奇襲をかけるべきだ。
俺の「信頼出来る仲間」はそう言って、『青薔薇連合会』の情報屋を買収した。
買収資金も、「信頼出来る仲間」が用意立ててくれた。
大切な仲間が、そこまでしてくれたのだ。
いよいよあの男…ルレイア・ティシェリーの首に、縄をかけるときが来たと。
無論、本当に『青薔薇連合会』が偽情報に騙されるかは分からない。
もしかしたら、相手にしないかもしれない。
あるいは騙されたとしても、いきなり自警団本部に飛び込んでくるのではなく。
真偽の程を確かめる為に、ブロテ団長に電話を掛けるなり、手紙を書くなり、連絡してくるかもしれない。
何も知らないブロテ団長は、きっと馬鹿正直に答えるはずだ。
「帝国自警団でマフィアのリーダーを匿っているという事実はない」と。
ブロテ団長がこのことを知れば、彼女は間違いなく、『青薔薇連合会』との敵対を避けようとするはずだ。
しかし、それでは意味がない。
敵対してもらわなければ困るのだ。自警団と『青薔薇連合会』は。
買収された情報屋からの偽情報を受け、真偽の程を確かめる為に、ルレイア・ティシェリーが帝国自警団に奇襲をかけてくる。
これこそ、俺達が望む展開だった。
本当にそうなるのか、それはやってみなければ分からなかった。
恐らく、上手く行かない可能性の方が高かった。
それどころか下手をすれば、俺達が独断で動いていることをブロテ団長に知られ、帝国自警団を追い出される可能性すらあった。
だから、これはとても危険な賭け。
でも、俺は…俺達は、この危険を犯してでも、実行する価値があると思った。
だってこれがもし、上手く行けば。
今度こそ俺達は、ルレイア・ティシェリーの首に手が届く。
あの男の躯を、全ての死者…奴が苦しめた全ての人々…の前に、晒し者にすることが出来る。
とても魅力的だろう?
そのときの為に、俺達はいかなる努力も厭わない。
あと少し、あと少しでそれが叶う。
そして、この日。
何も知らない、愚かなあの男が…のこのこと殺されにやって来るのだった。
…その、少し前。
「…来るかな、『青薔薇連合会』は」
俺の協力者である彼女は、不安げな表情でそう聞いてきた。
既に情報屋を通じて、『青薔薇連合会』に偽情報を掴ませた。
『M.T.S社』のリーダーと幹部達が帝国自警団に匿われている、と。
果たしてこの情報を受けて、『青薔薇連合会』は…あの男は動くだろうか?
仮に動いたとして、俺達が望むような展開になるのだろうか。
こればかりは誰にも分からない。
賽は投げられたのだ。あとは黙って、事態の成り行きに身を任せるしかない。
「『あいつ』は、ルレイア・ティシェリーが攻めてくる可能性が高いと言ってた。『あいつ』の言葉を信じて待つしかないだろう」
「…それはそうなんだけど…」
「あいつ」…俺達の「信頼出来る仲間」が立てた作戦なのだ。
帝国自警団の存在を、ブロテ団長の存在を調べ、この組織を復讐の為に利用しよう。
その計画を立ててくれたのも、その「信頼出来る仲間」だ。
だからこそ俺と彼女は、「信頼出来る仲間」の指示に従ってここに来た。
その甲斐もあって今、俺達はこうして…帝国自警団を隠れ蓑に出来ている。強力な切り札も手に入れた。
今のところ、「信頼出来る仲間」の立てた作戦や計画は、全て上手く行っている。
…まぁ、思っていた以上にブロテ団長が穏健派だったことは、想定外だったが。
しかし、これは仕方ない。国内にさえいなかったブロテ団長の人柄を、推し量る術などなかったのだから。
とにかく、今のところ「信頼出来る仲間」の作戦は成功しているのだ。
今回の作戦も、そんなあいつが立ててくれたものだ。
ならきっと大丈夫だと、俺達は信じるしかない。
…それに。
「大丈夫だ。もし失敗したとしても…俺達には失うものはない。情報屋が買収されたことも、偽情報を掴ませたことも、俺達の仕業だと誰も分からない」
「…それは…」
ルレイア・ティシェリーは勿論、俺達がここにいることを知らない。
ブロテ団長も、まさか俺達が独断で動いているとは知らない。
もし作戦が上手く行かなかったとしても、全て情報屋に責任を押し付けることが出来る。
「情報屋が間違えて偽情報を売った」ということにしてしまえば良い。
一連の事件を、俺達と結びつける証拠など何処にもない。
だから何も恐れることはない。
ただ、獲物が罠にかかるのを待てば良い。
この罠にかからなければ、いずれまた、別の罠を仕掛けるだけのことだ。
いつか、あの男の首に手が届く日まで。
…すると、そのとき。
突如として、自警団本部に、緊急を知らせる警報が鳴り響いた。
突然の警報に、誰もが腰を抜かしていたが。
俺達だけは違った。
「…来た」
獲物が、罠にかかったのだ。
――――――…何処かの誰かが、良からぬ企みを抱いているとも知らず。
いざ、帝国自警団本部に再び。
今度はルルシーも一緒ですよ。
俺達が「遊びに」来たことで、きっとブロテも喜んでくれるだろう。
では、いつものをやっておこう。
「お邪魔しまーす」
鎌を一振りぶん回して、丁寧に正面玄関を「ノック」。
いやぁ、あまりの礼儀正しさに涙ちょちょ切れですね。
それなのに、ルルシーは。
「…」
きちんとノックをしてお邪魔したというのに、そんな礼儀正しい俺を見ようともせず。
「またか…」みたいな顔で、無言で視線を逸らしていた。
ちょっとルルシー?こっち見てくださいよ。
俺の素晴らしい礼儀作法ですよ。
舞い上がる土煙を、鎌を一振りして払う。
視界は開けましたね。
さぁ、では行きましょうか。
「こんにちはー、ルレイアですよ。誰かいます?」
「お前な…。挨拶をするなら、玄関を壊す前に挨拶しろよ…」
え?ルルシー今何て?
別に良いじゃないですか。どうせお邪魔させてもらうんだし。
すると。
「ひっ…!」
玄関をぶち壊し、あ、いや丁寧に「ノック」して入ってきた俺を見て。
エントランスにいた自警団員の男が一人、腰を抜かして座り込んでいた。
おぉ、丁度良いところに人が。
俺はつかつかと歩み寄り、その団員の胸ぐらを掴んだ。
「ひぃっ…や、やめて。助け…」
びびってるところ申し訳ありませんね。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「や、やめてくれ。助けてくれ!死にたくない…!」
あ、これ面倒臭いパターンだ。話通じない系。
俺がこんなに丁寧に質問してるというのに、何故まともに答えてくれないのか。
俺以外、皆無礼なのでは?
仕方ないから正気に戻してあげようと、俺は鎌の柄で団員の男の顔面をぶん殴った。
折れた歯が何本か宙を舞って、壁に叩きつけられていた。
おっと。ちょっとやり過ぎたか?
気絶でもされたら、起こすのが面倒だ。
しかし幸いなことに、腫れ上がった顔を晒しながらも意識はあるようで。
団員の男は、恐怖に怯えた顔で俺を見上げていた。
全く。帝国自警団の団員ともあろう者が、何とも情けない顔だ。
「おいルレイア、やり過ぎるなよ。死なれたら面倒だ」
と、釘を刺すルルシー。
「分かってますって。ちょっと尋ねるだけですよ。例の情報が本当なのか…」
俺は、再び団員の男の胸ぐらを掴み上げた。
「さて、もう一度聞きますね。ちょっと質問があるんですけど、帝国自警団が…」
と、俺が言いかけたそのとき。
「や、やめて!!」
「…あ?」
甲高い声がして、誰かと思って振り向くと。
いかにもひ弱そうな、そして頭の悪そうな女が立っていた。
拳銃を両手で握り、銃口をこちらに向けている。
…ほう。
この俺に拳銃を向けるとは…随分良い度胸だ。
拳銃など、恐れるに足らない。
おまけにこの女、足はぶるぶる震えているわ、腰は引けているわ、目は怯えているわ。
とてもじゃないが、引き金を引く度胸はあるまい。
馬鹿め。
その拳銃は玩具か?
「や、やめて。その人を離して!」
「…離さなかったら?」
「は、離さなかったら…。う、撃つわ…!」
などと、意味不明な供述をしており。
俺は胸ぐらを掴んでいた男を、ぶんと放り投げた。
お望み通り、離してやりましたよ。
その代わり…あなたが俺の相手をしてくれるんですよね?
「…良いこと教えてあげましょうか?」
俺は、助っ人に入ったその女の拳銃の銃口に、片手で包み込むように触れた。
「撃つぞ、って脅してる間に…一発撃ってみたらどうです?」
「…!」
目を見開いた女の首に、俺は手をかけた。
離せと言ったから、離した。
じゃあ、代わりにあなたが俺の質問に答えてくれるんですよね。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど…」
「こ、こんなことして…ただで済むと思うの…!?」
…あ?
ぶるぶる震える手で銃口を向けながら、超絶下手くそな脅しをかけてきた。
「そ、そっちがその気なら…じ、自警団だって、容赦はしな…」
「…ねぇ」
俺はその女の顔面に、鎌の刃を添わせた。
その素晴らしい切れ味に、女の皮膚に赤い線が走った。
こんなことをして、ただでは済まない?
帝国自警団も容赦をしない?
…それが何?
「今、俺が尋ねてたんですけど」
「…え…」
え、じゃないんですよ。
下らない脅しなんてどうでも良い。
それより…俺の質問に答えろ。
次の瞬間、女の顔が思いっきりのけ反った。
何のことはない。
鎌を持ってない方の手で、俺がぶん殴ってやったからだ。
血飛沫が宙を舞い、震える手で握っていた拳銃が吹っ飛んで、壁に当たって落ちた。
ちゃんと握っておかないからさ。唯一の武器を落とすんだよ。
「さぁ、これで目が覚めました?」
「う…うぅ…」
渾身の一撃を受けた拳銃女は、目を白黒させて呻いていた。
たった一発で伸びてしまうとは。お前、本当に帝国自警団の団員か?
さっきの男と言い、帝国騎士団より軟弱だな。
「質問に答えてくださいって、さっきから何度も言ってるのに…」
しかも、全然難しくも何ともない質問なんですよ。
はい、かいいえ、で答えられる簡単な質問。
それなのに、何故か聞いてももらえない。
「人の話はちゃんと聞きましょうって、小さい頃教えられなかってんですかね?ねぇルルシー」
「…お前がそれを言うか。世も末だな」
え?ルルシーあなた、今何て?
聞こえなかったことにしよう。
「伸びてるところ悪いんですけど、答えてもらえませんか。帝国自警団に、」
と、改めて拳銃女に尋ねようとしたら。
今度は。
「マリアーネから離れて!!」
再び甲高い声がして、またしても俺の質問は中断させられた。
…次から次に。横槍が入る。
しかも、やって来たのは帝国自警団の大物。
「…ブロテさんじゃないですか」
俺達の間に割って入ってきたのは。
帝国自警団団長、ブロテ・ルリシアスその人であった。
来るの遅くないです?
「もう一度言う。マリアーネから離れて!」
だ、そうですよ。
ブロテは片手にレイピアを持って、その切っ先を俺に向けていた。
この拳銃女に比べたら、百倍は腰が据わってるな。
手も足も唇も、全く震えていない。顔には怯えではなく、怒りが滲んでいる。
さすがは帝国自警団団長といったところか。
ってか、この拳銃女。マリアーネって名前なのか。
帝国自警団のマリアーネ…と言えば、名前を聞いたことがある。
あぁそうだ、思い出した。
「ルルシー。この女、確か帝国自警団の団長代理やってたんじゃなかったですか?」
「あ…?そうなのか?」
ルルシーは覚えていないご様子。
まぁ、死ぬほど影の薄い団長代理だったからな。
こんなビビリ女だったとは。そりゃこんな女に自警団の団長代理なんか任せてたら、自警団の影が薄くなるのも当然というものだ。
「こんな腰抜けが団長代理…。情けない女ですよ。自警団、よく潰れなかったものですね」
マフィアの幹部相手に、腰が抜けて引き金も引けないほど肝の小さい女が。
本人も自覚はあるのか、図星を指されてマリアーネは泣きそうな顔になった。
すると。
「…これ以上、マリアーネを侮辱したら許さない」
激しい怒りを滲ませて、ブロテは力強くレイピアを握り締めた。
…ほう?
「腰抜けを庇うんですか?」
「マリアーネは腰抜けなんかじゃない。ルティス帝国を留守にしていた私の代わりに、立派に自警団を守ってくれたんだ」
腰抜けなんかじゃない(笑)。だって。
面白い冗談ですね。
「マリアーネを侮辱しないで。その子を離して!」
さっきも似たような台詞を聞いたな。
「離さなかったらどうなるんです?」
「…死ぬことになるよ」
成程。
さっきより遥かに、面白いお返事ですね。
「コントのつもりですかね?ルルシー。俺達死ぬことになるらしいですよ」
「お前が挑発ばかりするからだろ?離してやれ。どうせその女は何も知らないだろ」
「ですね」
ルルシーがそう言うなら、じゃあその通りにしますよ。
俺はマリアーネを放り投げて、ブロテに返してやった。
ベッドの上では別として、俺には婦女子をいたぶる趣味はないからな。
ベッドの上では別として、な。
「マリアーネ…!しっかりして」
放り投げられたマリアーネを、ブロテは必死に抱き起こしていた。
「ぶ、ブロテちゃん…。私…ごめんなさい、役に立てなくて…」
「そんなことない。マリアーネはいつも精一杯頑張ってくれて…」
噴き出すかと思った。
何の冗談ですか?
「必死に無能を庇って、団長って大変ですね。お前みたいな役立たずはクビだ!って言ってやれば良いのに」
と、俺は思わず本音を溢してしまった。
しかし、ブロテは耳聡くそれを聞きつけ、キッ、と俺を睨んできた。
おぉ怖。
「黙って。君には関係ない!」
「はいはい、そうですね」
その通り。自警団が、ブロテが無能を庇いたいんなら、好きにすれば良い。
馬鹿だなと思うが、俺には関係のない話だからな。
つくづく、俺は帝国自警団の人間じゃなくて良かった。
俺はこんな、拳銃を引くことも出来ない無能な腑抜け団長代理のもとで働くつもりはないし。
そんな腑抜け女を団長代理に指名し、今に至ってもこうやって庇い続け。
自分は悠々自適に外国留学していた、無責任な団長であるブロテのもとで働くつもりも、全くない。
俺の上司はアシュトーリアさんで良かったー。
世の中は無能が多過ぎる。
ついでに言うと、礼儀というものを知らない連中も多過ぎる。
俺を見習ってくれ。超有能で、しかもとっても礼儀正しい。
まぁ、帝国自警団はブロテの組織なんだから、ブロテの好きなようにすれば良い。
ただ俺は関わりたくないってだけ。
…そんなことより。
俺はブロテに聞きたいことがあっ、
「…どうしてこんな酷いことが出来るんだ」
…。
ブロテはゆらりと立ち上がり、再びレイピアの切っ先を向けた。
…俺はいつになったら、この女にまともに話を聞いてもらえるんだ?
「俺、何か酷いことしましたっけ?」
「白々しいことを言うな」
あ、はい済みません。
「何の罪もない人を…こんなに傷つけて!」
「…ルルシー、俺何か悪いことしました?」
「お前の常識でどうなってるのか知らないが、人様の玄関をぶち壊し、中にいる人間を二人もぶっ飛ばしたら、普通は警察呼ばれるからな」
ルルシーは、真顔で俺にそう言った。
えっ。最近の世の中ではそうなってるんですか?
「君は元帝国騎士なんだろう…?人を守る為に戦ってきたんだろう?いくら裏切られたとしても…その魂まで外道に落ちるのは、それは間違いじゃないのか」
「…」
「本当は、人を平気で傷つけることが間違いだって分かってるはずだ。自分が味わった痛みを、他人にまで押し付けるなんて…」
ガンッ!!と凄まじい音がした。
これにはブロテも言葉を詰まらせ、黙り込んだ。
何の音かと思ったら、俺の死神の鎌が床にめり込んだ音だった。