「…ブロテ…」

同じく、事実を知ったユナが、私を気遣って声をかけてくれた。

が、そんなユナの優しさにも応えられない。

応えられないほどに、落ち込んでいた。

そりゃ落ち込むよ。

これまでずっと、『青薔薇連合会』の幹部ルレイア・ティシェリーの悪事の数々を知って、激しく憎悪し。

何とか彼を更生させよう、悪事をやめさせよう…と意気込んで、彼を一ヶ月に渡って「保護」までしたというのに。

…その全てが、私の独り相撲だったなんて。

これで落ち込まずして、どうすれば良いと言うのか。

帝国騎士団もベルガモット王家も、『青薔薇連合会』にみかじめ料を巻き上げられてなどいないし。

箱庭帝国のルアリス殿に至っては、「『青薔薇連合会』に脅されているというのは本当のことですか」と尋ねてみたら。

ルアリス殿は言葉を失って、たっぷり30秒は沈黙した後。

「…何のことですか…?」と、心底不思議そうな声で聞き返された。

演技ではなく、本当に何も知らなかったらしい。

シェルドニア王国には…相変わらずアシミム女王には直接連絡が取れなくて、真実のほどは分からなかったけど。

帝国騎士団からの献金もガセ、ベルガモット王家からの献金もガセ、箱庭帝国からの献金もガセとなると…。

シェルドニア王国だけ本当でした、なんてことは多分ない。

つまり、それもガセなのだ。

…なんてことだろう。

それだけではない。

オルタンス殿に、『青薔薇連合会』にいる皇太子殿下のことを尋ねてみたところ。

ルーチェス皇太子殿下の出奔は既に知られており、あくまで本人の意志で『青薔薇連合会』に身を寄せたとのこと。

しかも、『青薔薇連合会』に入ったルーチェス殿下は、宮殿にいた頃より遥かに生き生きしているとか…。

…捕虜として囚われているなど、とんでもない話だった。

自分の誤解と勘違いを知って、呆れを通り越して、寒気を覚える。

『frontier』というグループのこともそう。

彼らの公式ホームページで経歴を調べてみたところ。

彼らが『青薔薇連合会』系列の事務所に入ったのは、結成してからしばらく経ってからのこと。

つまり、『青薔薇連合会』がけしかけて、作らせた訳ではないということだ。

自分がいかに浅慮であったことかと、恥じるばかりである。

ルレイア卿にも申し訳ない。

謝っても謝りきれず、しかし謝る以外にどうしようもない。

土下座せんばかりに謝罪したところ、ルレイア卿は白い目で私を見つめ。

「悪いと思ってるならさっさと解放してください」と、至極真っ当なことを言われた。

ごもっともである。

私はすぐさま、一ヶ月の期限まで残り数日を残して、ルレイア卿を解放した。

ルレイア・ティシェリー卿を改心させてみせる、帝国自警団の仲間になってもらう…。

そう意気込んで、彼をここに連れてきたというのに。

蓋を開けてみたらどうだ。

まさか、平謝りで彼を解放する羽目になるとは。

今回の件で、私は大きな学び、教訓を得た。

その真偽を確かめるまでは、噂を鵜呑みにしてはいけないということだ。

二度とこのような恥ずかしい過ちを犯さないよう、肝に銘じておこうと思った。