「『青薔薇連合会』の脅しに屈する帝国騎士団も悪い。だけどそれは、長い間私達自警団が何の手も打たなかったせいでもある」

「…」

「君達が帝国騎士団から巻き上げている物資やお金は、国民達が汗水垂らして集めてくれた、大切な国の財産なんだ。それを掠め取られるとなったら…私も黙っていることは出来ない」

「…」

「お願い。帝国騎士団から手を引いて。ベルガモット王家からも」

…。

…何の冗談言ってるのか、と思ったが。

そういや、この女。

何か色々と誤解してるんだっけ?

「それと、箱庭帝国からも。箱庭帝国の人々が憲兵局の圧政から抜け出したのは、『青薔薇連合会』に隷属する為じゃない」

ポカンとしている俺をよそに、ブロテは至って真面目な顔でそう続けた。

「彼らの革命に手を貸した。だからその見返りを受け取らなきゃいけない…それは分かる。でも、もう充分じゃないの?」

「…」

「これ以上、罪のない箱庭帝国の人々から搾取するのはやめて」

…えーと。

俺は何と言ったら良いんだ?

これほど盛大な誤解を、いちいち一つずつ解いていくのは非常に面倒臭い。

「あ、そうですか」で全部終わらせて良いだろうか。

「それと…シェルドニア王国とのことも」

と、ブロテ。

シェルドニア王国…あの頭の中まで縦ロールたっぷり女王様が何だって?

「海を超えたあの国にまで、手を出すのはやめて。シェルドニア王国の人々にはシェルドニア王国の人々の生活がある。彼らの平穏を脅かさないで」

「…」

…逆では?

むしろ、アシミムが先に俺達の平穏を奪ってきたんだよ。

あいつらの国内の騒乱に、尻ぬぐいばっかさせられて迷惑してるよ。

先王暗殺やら、ハゲ・バールレンの騒動やら。

「それに何より…ベルガモット王家の皇太子殿下について」

ベルガモット王家の皇太子…ルーチェスのことか?

正しくは、「元」皇太子だけど。

そんなルーチェスが何だって?

「囚われの身になっている皇太子殿下を、すぐに解放して欲しい。人質を取ってまで女王陛下を隷属させようなんて…それはあまりにも卑劣だ」

ブロテは嫌悪感すら滲ませて、真剣な顔で俺を睨んだ。

…ルーチェスって、囚われの身なんだ。それは初めて知った。

「『frontier』というアーティストの話も聞いたよ」

今度は『frontier』の名前まで出てきた。

俺の最推しアーティストがどうしたって?

誰から何の話を聞いたんだ?

「あのグループも君が作らせて、都合の良いように利用して、金儲けの道具にしてるらしいね」

…。

…それ、本当に誰から聞いたんだ?

誰がそんな情報をブロテに吹き込んだ?ちょっと連れてきてくれ。

「お願いだよ。もう罪のない人を脅して、彼らの財産を奪い取るのはやめて。他人は君の道具じゃないんだよ」

「…」

マフィアの幹部に説教を垂れる、帝国自警団の団長。

しかもその説教は、全てが的外れという。

当人のブロテは至って真面目なのだが…。

傍目から見たら、これほど滑稽な光景もなかなかないだろうな。