――――――…ルルシーとブロテが、俺を巡って争っている…とも知らず。

「ふんふーん♪ふんふんふーん♪」

帝国自警団本部の一室で、俺は鼻歌を歌いながら、ソファに寝そべってくつろいでいた。

片手に紅茶のティーカップ、片手にファッション雑誌。

部屋の中に置かれたオーディオから、『frontier』の美しい曲が流れていた。

これ、この間夏フェスで新発売したばかりの新作ですよ。

CDもファッション雑誌もオーディオも、当然、この部屋に元々置いてあったものではない。

暇だったから、頼んで持ってきてもらったものだ。

「欲しいものがあったら何でも言ってくれ」って言ってたし。遠慮なく。

お陰で、一ヶ月近く軟禁状態にあるにも関わらず、俺は割と快適に毎日を過ごしている。

一日中ダラダラしていられる。3食昼寝付きとはこのこと。

これはあれですよ。

いつも真面目で勤勉に働く俺に、神様が夏休みをくれたんですよ。

そう思うことにしよう。

普段は役立たずの神様だが、たまには良い仕事をする。

…ただし、ルルシーや…『青薔薇連合会』の皆に会えない、連絡も取れないというのは不満だった。

皆心配してくれているだろうか?

ルルシーは心配してるだろうな…。ルルシーの心配性は重症ですから。

かく言う俺のルルシー欠乏症も、そろそろ末期に突入しそうだ。

せめて、今のくつろいだ俺の姿を見せて、元気にやってることくらいは伝えたいものだ。

でも、それもこれも、長くてあと一週間足らずだ。

もうすぐ一ヶ月の期限がやって来る。

一ヶ月が過ぎるようなら、「保護」の代わりに別の制度を使って、更に拘束期間を延長するかもしれないと、警戒はしていたのだが。

どうやらブロテには、今のところそのつもりはなさそうだった。

一ヶ月の期限が過ぎたら、そのまま何もなく解放してくれそうだ。

そうしてくれ、切実に。

俺のルルシー欠乏症がこれ以上進行すると、悲劇が訪れるぞ。

いくら雑誌やCDで誤魔化しても、ルルシーに会えない寂しさが埋まる訳ではないからな…。

あぁルルシー。ルルシーに会いたい。

あと一週間か…。長いなぁ…。

そう思いながら、雑誌を眺めていた…そのとき。

コンコンと、部屋の扉がノックされた。

「ん…?」

俺はオーディオのスイッチを切り、部屋の中に流れる音楽を消した。

ソファから起き上がり、雑誌を脇に置く。

誰か来たようだが…。

「ルレイア卿。入って良いかな?少し話をしたいんだけど」

聞こえてきたのは、ブロテの声だった。

入ってくんなと言いたかったが、話を進めないことには埒が明かないので、まぁ許してやろう。