俺は、ブロテの顔を真っ直ぐに見ながら言った。

「ルレイアが表の世界に戻りたがってるなら、いくらでも協力する…。ルレイアが望むなら、俺は何でもしてやる」

あいつを一人で送り出すなんて、血を飲むような思いだけど。

嫌で堪らないけど。行って欲しくないに決まってるけど。

でもルレイアがそう望むなら、俺は心から応援する。

ルレイアの幸福は、それ即ち俺の幸福だから。

…だけど、そうじゃないんだろう?

ルレイアは光の世界に戻りたいなんて、帝国自警団に入りたいなんて、一言も言ってないんだろう?

ルレイアが望まないことを、俺が応援するはずがない。

「ルレイアが望まないなら、協力はしない。…誰がするものか」

「このまま悪事を重ねさせることが正しいと、本気で思ってるの?」

「正しさなんて知るか。お前の勝手な匙加減で、俺達の正しさを語るな」

善行を積むことだけが「正しい」などと、認めさせてなるものか。

正しさなどどうでも良い。俺はただ、ルレイアが幸福であればそれで良いのだ。

「…そう…。…分かったよ」

ブロテは、心底失望したような表情で呟いた。

お前こそ、本気で俺がルレイアを説得するとでも思ってたのか?

『青薔薇連合会』から出て行けと?冗談じゃない。

「分かったなら、さっさとルレイアを返せ」

何度ルレイアに言い聞かせても無駄だぞ。

ついでに言うと、俺を脅しても無駄だ。

帝国自警団ごときの脅しに、屈する俺達ではない。

「勿論彼は返すよ。でも…最後にもう一度だけ、ルレイア卿本人に尋ねてみても良いかな」

「何を?」

「マフィアから足を洗って、表の世界で暮らさないかって」

「勝手にしろ。ルレイアが相手にするとは思えんがな」

ルレイアのことだ。「寝言は寝て言え」とばっさり切り捨てるか。

もう一度「クソ食らえ」の一言で終わらせるだろう。

ルレイアが『青薔薇連合会』を裏切るなどとは、微塵も思っていない。

まぁ、ルレイアが『青薔薇連合会』をやめたいなら、それはそれで構わない。

何度も言うが、俺はルレイアの幸福を願っているだけだ。

ただ一つ、ブロテに言っておくべきことは。

「…ルレイアに怪我の一つでもさせてみろ。お前も、お前の自警団にも…地獄を見せてやるからな」

我ながら、空気が凍るほどの冷たい声だった。

これは脅しではない。

ルレイアに万一のことがあれば、相手が帝国自警団だろうと関係ない。相応の報いを受けてもらう。

自警団ごときに、ルレイアをどうにか出来るとは思わないが…。

シェルドニア王国の…『白亜の塔』の一件もある。

あのときみたいに、ルレイアの弱みに付け込み、強引に薬や機械で洗脳されるようなことがあれば…。

絶対に、ただでは済まさない。

「そんなつもりはないよ。傷一つつけないと約束する」

ブロテは怯えることなく、淡々と頷いた。

…そうかい。それなら良い。

ルレイアを無事に返してくれるのなら、これ以上ブロテに望むことなど何もなかった。