俺だけじゃない。

『青薔薇連合会』にいる奴は大抵そうだ。…ルレイアだって。

皆何かしら、やむにやまれぬ事情があって…行く宛をなくして、こちら側にやって来た。

地獄以外に行く場所がなくて、仕方なく裏の世界にやって来た奴らが。

足を洗って表の世界に戻りたいと望んだところで、戻れるはずがないだろう。

一度こちら側に来れば、もう戻ることは不可能だと思って良い。

闇の暗さに目が慣れてしまったら、もう二度と明るい場所には戻れない。

闇に魂を囚われてしまったが最後、死ぬまでこちら側にいるしかないのだ。

どれほど表の世界が眩しくても。

その眩しさ故に、身を滅ぼしてしまうことを知っているから。

それが、俺達のような…裏の世界に生きる住人の性なのだ。

そんなことも知らず、「世の中捨てたものじゃない」などと甘い綺麗事を信じられるブロテには、分かるまい。

綺麗事で腹は膨れないし、詭弁で人の魂を救うことは出来ない。

「ルレイアを助けたいと言うなら、もっと早くにそうするべきだったんだ」

ルレイアが帝国騎士団に裏切られ、失意の底で立ち上がれずにいたとき。

ルレイアが、本当に救いを求めていたとき。

あのときに救ってやるべきだった。あのときに…手を差し伸べるべきだった。

ルレイアが最も傷ついていたあのとき、闇の抱擁以外に、誰がルレイアを助けてやれたと言うんだ?

誰もいなかったじゃないか。

気を利かせた神様が、一人でもルレイアの救済者を与えてくれたか?

ルレイアを助ける者はいなかった。…俺以外の誰も。

辛いとき、苦しいときに必ず誰かが助けてくれるなんて、どうして無邪気に信じられる?

世界はそんなに甘くない。俺達はそのことをよく知っている。

だから信じない。

ブロテの綺麗事も。ブロテの掲げる…「正しい道」も。

正しさごときで、誰が救えるというんだ?

「もう遅い。今更…表の世界には戻れない」

「…諦めるのは…」

まだ早い、ってか?

…勝手なことを言うな。

「お前の正しさを押し付けるな。表の世界で生きることだけが、全ての人にとって幸福だと思ってるなら…お前はただの世間知らずのお姫様だ」

暗い世界に安息を覚える者だっている。

明るい世界の方が生きにくい、と思う者だっている。

…俺のようにな。