「今回は目を瞑るってだけで、許してはいないよ。だから、これは貸しだ」

やっぱり、アイズは欲張りさんだ。

許すと言ったら、それで今回の騒動の決着がついてしまう。

けど、貸しということにすれば、その貸しを返してもらうまでは、決着がつかない。

一度でも貸しを作った以上、『青薔薇連合会』とシェルドニア王国との関係は対等ではない。

常に、俺達『青薔薇連合会』の方が少し優位に立てる。

その僅かな立場の差が、これから多くの利益を生むことだろう。

それを見越してアイズは、「今回は目を瞑る」と言っているのだ。

そして、そのことをルシードも理解していた。

「…さすが、マフィアというのは強欲だな」

それは褒め言葉だと思って良いんですよね?

「何か問題でも?」

皮肉を言われようと、アイズは素知らぬ顔。

これがルティス帝国の、マフィアのやり口ですよ。

恨むなら、こんな連中と関わりを持ってしまった自分達を恨むんだな。

「気に入らないなら、『話し合い』してあげても良いけど」

「いや、問題はない。そのように、主に報告する」

随分と聞き分けが良いじゃないか。

お前達もようやく、自分の立場ってものが分かってきたか?

それとも、この世には怒らせたらいけない人物がいるのだと分かったか。

「そう。それじゃ、用件は以上だね?」

「あぁ。だか一つ…我が主から、頼まれていることがある」

…頼まれていること?

「大したことじゃない。ただ…聞いてきて欲しいと言われただけだ」

「何を」

「…華弦の様子を」

…あぁ、そう。

一応覚えてはいるのか。かつての部下のことを。

華弦の方は、アシミムのことなんて記憶の彼方に消し飛んでそうだけど。

それとも、華弦があまりに優秀な部下だったから、あわよくば戻ってきて欲しいのだろうか?

それは有り得ないな。

「楽しそうですよ。以前と違って、今は上司に恵まれてますし。実の妹とも頻繁に会ってるみたいですし。何より今は上司に恵まれてますからね」

「…二度も言うなよ」

ちょっとルルシー。それはツッコミ禁止でしょ。

「まぁ、元気そうにやってますよ」

「…そうか」

少なくとも、シェルドニア王国にいた頃よりは充実してるんじゃないのか。

そりゃそうでしょうよ。

頭縦ロールなんちゃってお嬢様(笑)なんかより、俺の部下になった方が誰だって幸せでしょう。

「彼女にも、宜しく伝えて欲しいとのことだ」

「ふーん。まぁ気が向いたら伝えておきますよ」

華弦としては、自分が捨ててきた上司なんて、さして思い出したくもないだろうからな。

「用事が済んだのなら、さっさと帰ってくれませんか。あのくそったれな国に」

お好きなんでしょう?

俺は大嫌いですけどね。あの国。

憲兵局支配時代の箱庭帝国より嫌いだ。

「あのな、ルレイア…」

「でもルルシーだって、シェルドニア王国は嫌いでしょう?」

「それは…まぁそうだけど」

ほら。

人生で何度も行くような国じゃないよ。

ルシードも自覚はあるのか、気を悪くした様子はなかった。

「…詳しい賠償の内容は、追って伝えさせてもらう」

「はいはい」

それなら結構。

精々、シェルドニア王国の国庫に痛手を負わせる賠償額を、吹っ掛けてやりますよ。