「…俺もそう思う。テナイ・バールレン卿は、弟を見捨てられないのだろう」

散々迷惑をかけ、散々好き勝手やらかしたあのハゲ弟を。

この期に及んで、まだ見捨てられないとは。

なんとまぁ…「素敵」な兄弟愛じゃないか。

「…反吐が出ますね」

「…二人きりの兄弟だと聞いている。どれほど不出来な弟でも…。どうしても、情に駆られるのだろう」

ますます反吐が出る。

そんなに仲が良いなら、兄弟揃ってハゲれば良いのに。

「それに…サシャ・バールレン卿を、身ぐるみ剥がして放り出すのは危険だ、という意見もあった」

「…あ?」

何が危険だって?

「サシャ・バールレン卿は、シェルドニア王国の…『白亜の塔』の秘密を知っている。これまで上流貴族の一員として、『白亜の塔』の管理下から逃れていた」

あぁ、成程。そういうこと。

「下手にサシャから目を離して、奴が『白亜の塔』の秘密をバラしたら困る…ってことですか」

「そうだ」

馬鹿な奴らだ。

バレたら困るようなことをするから、こういうとき途方に暮れるのだ。

常に清廉潔白で、善行しか積んでない俺を見習って欲しい。

世の中の全ての人が俺だったら、世界恒久平和も夢じゃなかっただろうに。

『白亜の塔』の秘密を知っているサシャを、今更『白亜の塔』の管理下に置くのは難しい。

実家から追い出されたが最後、また自暴自棄になって、他国に『白亜の塔』の秘密を持ち込むようなことがあれば。

今度はまた別の国で、『帝国の光』のときの騒動が再現されるだろう。

だったら、サシャを放り出すのはやめて、目の届く場所に監禁しておいた方が良い。

…理屈は分かるが、やはり甘いと言わざるを得ない。

「大体、あれほどの大惨事を起こした馬鹿を、今日に至るまで生かしておくのが間違いなんですよ」

俺に言わせればな。

そんな馬鹿、最早生きていても何の救いもない。

さっさと殺してしまえば良い。
 
「それは…。…シェルドニア王国には、死刑制度が存在しない。『白亜の塔』の秘密を守る為にも…サシャ・バールレン卿を法で裁くことは出来ないんだ」

裁くことが出来たとしたって、やらないでしょうよ、あんたらは。

そもそも、死刑になるような罪を犯す人間は、シェルドニア王国にはいないからな。

こういう分野には、覿面弱いのだ。