…数十分後。

結局何の悪戯の用意もしないまま、ルシードがやって来る時間になった。

時間に遅れ、俺達を待たせるという生意気なことをしたら、やっぱり悪戯を決行してやろうと思ったのだが。

ルシードは、几帳面なくらいに時間ぴったりにやって来た。

ちっ。

仕方がないから、悪戯は勘弁してあげましょう。

ルルシーに救われましたね。

「ようこそ、『青薔薇連合会』本部へ。…居心地はどうかな?」

ホストとしてルシードを迎えたのは、幹部組のリーダー、アイズレンシア。

マフィアの本部に招いておいて、居心地を尋ねるとは。

さすがの余裕である。
 
「…慣れないな」

ルシードは眉一つ動かさず、そう答えた。

「ルティス帝国は初めてなんだっけ?」

「あぁ」

「じゃあ慣れないのは当然だね。ルティス帝国は、君達の国と違って…『お上品』じゃないからね」

アイズは笑顔で、ちょっとした皮肉を込めて言った。

アイズも結構攻撃的ですよね。

自分達が優位に立てる相手には、徹底的に威圧する。

まぁ、マフィアの常套手段みたいなものです。

しかし、ルシードはその程度では動じない。

「今日は我が主、アシミム・ヘールシュミットの代理として来た。早速だが…急ぎ、本題に入りたいのだが」

アイズの皮肉など軽くスルーして、さっさと本題に入れと要求。

せっかちさん。

「分かってるよ。部屋を用意してある。こちらへ」

「『青薔薇連合会』の首領…。アシュトーリア・ヴァルレンシー殿は?」

ほう。アシュトーリアさんのことを知ってるのか。

それくらいは調べてきたらしい。

でも、悪いですね。

「アシュトーリアさんは、あなたごときには会いませんよ」

俺が口を挟むと、ルシードはくるりとこちらを向いた。

「…」

そのまま無言で、俺のことを見つめていた。

無表情なもんだから、何を考えているのか読みづらいが…。

まぁ、アイズやルーチェス達と違って。 

俺とルルシーとルリシヤ、かつてシェルドニア王国でしのぎを削ったメンバーには、ルシードも思うところがあるだろう。

主従揃って、この三人に痛い目を見せられた訳だし?

…特に俺はな。

アシミムの脳天に、紅茶ぶっかけてやったのは俺だから。

敵意を向けられてもおかしくない…と言うか、当然そうすべきだろう。

良いですよ、受けて立とう。

一匹狼がいくら睨みを効かせたって、死神には痛くも痒くもないのだということを教えてやろう。

…と、思ったが。

「そうか。…では、我が主が宜しく言っていたと、後で伝えておいてくれ」

ルシードは俺を相手にせず、あくまで冷静にそう言った。

…ふーん。乗ってこないか。

まぁ、ここはルティス帝国で、おまけに『青薔薇連合会』の本拠地。ホームグラウンドだからな。

そんな場所に単身乗り込んできて、俺と喧嘩して勝てるはずもない。

それが分かっているから、ルシードも大人しく黙っているのだろう。

内心、心穏やかじゃないだろうけど。

すると。

そんなルシードを見たルルシーが、俺に向かってポツリと一言。

「…ルシードは、お前の十倍は大人だな」

え、ちょっとルルシー。

「何が?どういう意味ですか?」

「別に。言葉通りの意味だ」

しっ…つ、れいな。

俺だって大人ですよ。分別を弁えた、立派な大人なんですよ?

全く、失礼しちゃいますよね。