すると。

「国民は穏やかだが、洗脳の影響を受けていない一部の特権階級は、至って普通の人間だからな」

ルリシヤが、単純明快な回答をしてくれた。

成程、そういえばそうだったな。

気性が穏やかなのは、あくまで洗脳の影響を受けた一般市民のみ。

ハゲ野郎…こと、シェルドニア王国上流貴族、バールレン家の次男、サシャ・バールレンは。

あいつは、『白亜の塔』の影響を受けていない。

おかしな話だよな。ご先祖が造り、自分達が開発資料を握っている『白亜の塔』を、自分達は使ってないんだから。

サシャみたいな大馬鹿野郎を止める為に、『白亜の塔』が開発されたんじゃないのか?

思い返せば思い返すほどに、『光の灯台』の件は危なかった。

サシャがもう少し賢くて、『光の灯台』がもし完成したら。

今頃ルティス帝国は、第二のシェルドニア王国になっていたかもしれないのだ。  

全く末恐ろしい。

洗脳されて、余計なことを考えなくて良くなれば、国民にとっては幸せなのかもしれないが。

だからって、あんなつまらない電信柱もどき一本で、自分の意志を捻じ曲げられるなんて御免だからな。

サシャが馬鹿で助かった。

…で、シェルドニア本国では、その馬鹿の起こした事件のせいで揉めていたと?

「どうなったんだ?あの馬鹿息子…」

「厳正に処分する、とか言ってましたけど…。あの国のことですから、俺達の言う『厳正』に比べたら、甘い処分だと思いますよ」

…だろうな。

マフィアの流儀では、「厳正に処分」と言えば、それは命を持って罪を償うことを指す。

が、あのシェルドニア王国では…どうだろうな。

犯罪発生率が低過ぎるせいで、良くも悪くも、人を裁くことに慣れていない国だからな。

ましてや、サシャの兄…バールレン家の長男、テナイ・バールレンは、弟を随分庇ってたみたいだし…。

情状酌量の余地ありと見なされて、案外軽い処罰を受けているだけかもな。

情状酌量の余地なんて、俺達の目から見たら一ミリもないんだけど。

「そういうことを報告する為に、ルティス帝国に来てもらうんですよ」

と、ルレイア。

成程…。ルシードの来訪の目的はそれか。