「まさか、シェルドニア王国に行くんじゃないだろうな?」

「行きませんよ。あんな目に悪い国」

と、ルレイアはあっさり答えた。

あぁ、そう…。それなら安心した。

目に悪い国って、お前…。

シェルドニア王国は、右を見ても左を見ても、何処もかしこも真っ白だからな。

白い花、白い壁、白い道路…。

そして…国中に乱立する、恐ろしい白い塔。

知る人ぞ知る…悪名高き『白亜の塔』。

あんなものを見せられたら、ルレイアじゃなくても気分が悪くなる。

正直、俺ももう二度と見たくない。

『帝国の光』が作っていた『白亜の塔』の紛い物…『光の灯台』ですら、思い出しただけで眉をひそめる有り様なのに。

本家の『白亜の塔』を見に行くなんて、有り得ない。

俺は行かないし、ルレイアにも行かせない。

もう二度とな。

…しかし…。

「それなら、何でルシードの名前が…」

「こっちが行くんじゃないですよ。向こうが来るんです」

ルレイアにそう言われて、俺はようやく納得した。

そうか。

ルレイアがシェルドニア王国に行くんじゃなく、ルシードがルティス帝国に来るのか。

それなら安心じゃないか。

「俺だって、あんな目に悪い国には行きたくないですからね。『用があるならお前らが来い』って、アシミムに言ってやったんですよ」

お前って奴は、仮にも大国の女王に向かって…。

態度かデカいにも程があるが、ルレイアは自分が弱みを握った相手には、容赦なく強気に出るからな…。

シェルドニア王国の女王を顎で使うのは、ルティス帝国広しと言えど、お前くらいだよ。

我が相棒ながら、恐ろしくなってくるが…。

「そうしたら、ルシードを派遣するとのことです」

「アシミム本人じゃなかったのが残念だったな、ルレイア先輩」

「全くですよ。元縦ロールおばさん本人が来たら、頭に縦ロールのカツラをぶん投げてやったのに…」

失礼過ぎるだろ、ルレイア。

他国とはいえ、相手は女王なんだぞ。

万が一報復されたらどうするんだ…と思うが。

アシミム達は、『白亜の塔』の秘密やら、前王暗殺事件の秘密やらを握っているルレイアに、滅多なことはすまい。

絶対大丈夫だって分かってるから、ルレイアもここまで強気に出るんだろうし…。

…だからって、いくらでも失礼を働いて良い訳ではないからな。

人としての礼儀ってものがあるだろ。礼儀ってものが。

まぁ、アシミムやルシードを憎んでいるのは、俺も同じだが…。

「それで?何でルシードは、ルティス帝国に来るんだ?」

何か用事があるんだろう?わざわざアシミムが腹心を派遣するほどの理由が。

「簡単に言えば、事後報告ですね」

…とのこと。