The previous night of the world revolution7~P.D.~

―――――…どっかのアホが、とんでもない誤解と勘違いの沼に、ずぶずぶと足を踏み入れているその頃。

そんなことは、全く意に介さない俺達は。






「…どうです?ルリシヤ。進捗状況は?」

「あぁ。任せてくれ、もう少しだ」

「楽しみですね〜」

…『frontier』の夏フェスを終わった、その翌週。

今日も今日とて、当たり前のようにルレイアとルリシヤは、俺の執務室にやって来て、楽しくお喋り。

…してるだけなら、まぁ可愛いもんだ。いつものことだからな。

しかし、今日はいつもとは違った。

何故なら。

今日はこの二人、実験用ゴーグルをつけて、何やら怪しい実験をやっていた。

「…」

…なぁ。

…別に良いよ。お前らが何の実験をしようと。

危険がないなら、俺は口を出すつもりはない。

…でもな、これだけは言わせてもらうぞ。

俺の部屋でやるな。よそでやれ、と。






こいつら、俺の執務室を何だと思ってるんだ?

いつでも遊びに来て良い、公園みたいなものだと思ってるだろ。

公園感覚で訪ねてくるだけならともかく、そこで謎の実験を始めるんじゃない。

挙げ句、こいつら俺に無断で実験を始めたからな。

せめて家主の許可を取ってからにしろ。

これが本当に公園だとしても、勝手に実験をしたら怒られるぞ。

…しかも、顕微鏡を覗くとか、標本箱を眺めるとか、そんな可愛らしい実験ならまだしも。

「ルレイア先輩、そこの粉末ドラゴンズ・ブレスを取ってくれるか」

「はい、これですね」

「あぁ。これをビーカーに入れて、先程のハバネロペーストと…」

見てみろ。聞くにおぞましい実験をしてやがる。

ドラゴン?何だ?その無駄に格好良い材料は。

ちらりとルリシヤの手元を見ると、マグマのような赤い液体が入ったビーカーがあった。

なんか目がチリチリするんだが。気のせいか?

絶対近寄らない方が良い。本能で分かる。

何でそんな危険な実験を、俺の部屋でやるのか。

俺の部屋は実験室じゃないんだぞ。

すぐに出て行け!と叫びたいところだが…あまりにも奴らが危険な実験をしているせいで、声もかけづらい。

何で俺の部屋なのに、俺が遠慮しなければならないのか。

理不尽極まりない。

何を、何の為に作ってるんだか…。

まぁ、大体予想はつく。

あの実験材料を見るに、恐らくまた…ルリシヤの激辛カラーボールの改良版なんだろう。

あのシリーズ、もういい加減にした方が良いと思うんだが。ルリシヤはまだ満足していないらしいな。

…しかし、気になるのはルレイアだ。

ルリシヤが、あの悪趣味な自作カラーボールシリーズを開発するのはいつものことだが。

今回は何故か、そんなルリシヤの隣にルレイアがいる。

普段、ルレイアがルリシヤの実験に付き合うことはないはずだが…。

今日はまた、どういう風の吹き回しだ?

「ドラゴンズ・ブレスカラーボールの方はこれで良いとして…。他のブツは?」

他のブツ…?

ドラゴンズ・ブレスの時点で相当ヤバそうなんだが、他にもあるのか?

「色々考えてあるぞ。やはり母国の素材の方が馴染みがあるだろうと思って、調べてみたんだ」

「匠の気遣いですね!」

「ありがとう。ルレイア先輩に褒められると照れるな」

…何言ってんだ?お前らは。

匠の気遣い…?

「そういう訳で、こっちがシェルドニア王国で最も辛いと言われる、シェルドニアジゴクトウガラシだ」

シェルドニアジゴクトウガラシ…?

「こっちが、シェルドニア王国で最も酸っぱいと言われる、シェルドニアジゴクレモン。こっちがシェルドニア王国で最も甘い、シェルドニアジゴクザラメだ」

…そんな種類が…?

シェルドニア王国の名産物って…俺もそんなに詳しくないけどさ。

本当、突飛な食べ物が多いよな。

ルティス帝国の食文化に慣れていたら、カルチャーショックが半端じゃない。

…で、ルリシヤとルレイアは、そのシェルドニア王国の謎の特産物で、何をたくらん、

「これでカラーボールを作って、ルシードにぶん投げてやりましょうね!」

「ちょっと待て。何考えてんだお前」

これ以上、黙って静観しておけなかった。

ルレイアの相棒兼、お目付け役として。

今のは聞き捨てならなかったぞ、おい。
「…?どうしたんですか、ルルシー」

どうしたんですかじゃない。 

お前がどうしたんだよ。

ちょっと色々聞き捨てならないから、1から説明してもらおうか。

「何やろうとしてんだ?お前らは。ちょっと目を離したら…」
 
絶対ろくなことじゃないに決まってる。

椅子から立ち上がって、ルレイアに近づこうとしたら。

「あ、ルルシーゴーグル無しで近づいたら、」

「うっ…」

「あー…。言わんこっちゃない」

ドラゴンズ・ブレスの凄まじい威力に、ゴーグルをつけていなかった俺は、後ろにひっくり返りそうになった。

目が燃える。

「大丈夫ですか?ルルシー」

「迂闊に近寄ると、痛い目を見るぞ。ルルシー先輩。これはかの名高きドラゴンズ・ブレスだからな」

そんな危険物を、俺の部屋に持ち込むんじゃねぇ。

ルレイアが、俺に真っ黒のレース付きハンカチを差し出してくれたので。

有り難くそれを借りて、両目を押さえた。

はぁ…危ないところだった…。

…。

…って、一息ついてる場合じゃない。

「お前ら、何を企んでるんだ?」

「はい?」

とぼけたって無駄だぞ。

さっき聞いたからな、俺。

お前今、聞き捨てならないことを言ってただろう。

「お前ら、さっきから俺の部屋で何をやってるんだ」

「嫌がらせカラーボールを作ってます」

潔いな。やっぱり嫌がらせ目的なのか。

まぁ、それ以外に用途なんてないわな…。

「何か駄目でした?」

「…駄目ではない」

勘違いしないで欲しいが、俺は別に、カラーボールを作ってることに文句を言っている訳ではない。

別に良い。嫌がらせカラーボールを作る行為自体は。

馬鹿馬鹿しいように見えて、意外と有事には役に立つと知ってるからな。

これまで何度も、ルリシヤのお手製カラーボールに助けられてきた。

だから、カラーボールを作る行為そのものは別に良い。 

問題は、その開発を俺の部屋でやるなってことと…。

「…誰にぶつけるって?」

「はい?」

「それを誰に投げつけるって?」

「ルシードです」

大問題。

聞き捨てならない大問題だ。

覚えているだろうか、ルシード・キルシュテンという人物を。

彼はシェルドニア王国の女王、縦ロールおばさんこと、アシミム・ヘールシュミットの腹心である。

ルレイアに言わせれば、アシミムの腰巾着…らしいが。

あれでかなりの実力者であり、アシミムにとっては頼りになるボディーガードだろう。

シェルドニア王国で一悶着あった相手だが、何故その人物に、激辛カラーボールをぶん投げるという事態になるんだ。

「何でそんなことをするんだ?」

「え?だってムカつくじゃないですか」

「…」

…そんな適当な理由で。

ルシードはドラゴンズ・ブレスやら、シェルドニアジゴク何たらいう素材で作った、嫌がらせカラーボールを投げられるのか。

たまったもんじゃないな。気の毒に。
…だが。

俺がいる限りは、そのような無礼を働かせる訳にはいかない。

「…ルレイア」

「あいつ、いつも澄ましていてムカつきますからねー。一回痛い目を見せてやりたいと思ってたんですよ」

「前王の暗殺事件で、奴らには随分『世話に』なったからな。そのお礼をするには良い機会だ」

「話を聞け、お前ら」

勝手に和気あいあいしてるんじゃない。

「確かに、あいつらに世話になったのは事実だが…」

俺だって、アシミムやルシードには思うところがある。

今も許した訳じゃないからな。俺は。

あのとき、あいつらがルレイアにしたことを思うと…腹が立ちもする。

多分一生許せないだろう。

でも、だからって…攻撃された訳でもない相手に、殺人カラーボールをぶん投げて良い訳ではない。

大体そんなものぶん投げたら、投げられたルシードのみならず。

周囲にいる人間や、後でその現場を掃除する人間にも被害が及ぶだろ。

敵陣地のど真ん中で投げるなら良いけど、自分のテリトリーでやるのはやめろ。

危険が過ぎる。

「だからって、そんな嫌がらせをするんじゃない。子供じゃあるまいに」

「ほら、俺は心が少年なので…」

「アホなこと言ってないで、すぐに実験はやめろ」
 
それから、俺の部屋でやるな。

よそでやれ、よそで。

「もー…仕方ないですね、ルルシーったら…」

と、溜め息をつくルレイア。

何で俺が我儘言ったみたいになってるんだ。

我儘なのはお前だろ。

「仕方ありません。今回はルルシーに免じて…許してやるとしましょう」

「そうか…分かった」

「でも、そのカラーボールはいつか何かに使えそうなので…」

「そうだな。開発は続けよう」

続けんで良い。やめろ。

百歩譲って続けるにしても、俺の前でやるんじゃない。

ルレイアとルリシヤは、渋々といった風に実験道具を片付け。

危険な嫌がらせカラーボールの試作品を、ようやく俺の前から撤去してくれた。

ホッ。

自分の部屋なのに、まともに呼吸も出来ないなんて。どんな悪夢だ。

ようやく普通に息が出来る。

「はい、ルルシー。片付けましたよ」

「よし」

これで、俺の部屋に平和が戻ってきた。

…と、思ったけど。

まだ、全ての疑問が解決した訳ではない。

「…ルレイア」

「何ですか?」

「そういえば…何でルシードなんだ?」

お前ら、ルシードに嫌がらせカラーボール投げるって言ってたよな?

何故今、唐突に、ルシードの名前が出てくるんだ?

彼はルティス帝国から大海を挟んだ向こう側、シェルドニア王国にいるはずだろう。

まさか、俺達がシェルドニア王国を訪ねる訳ではなかろう?

あの洗脳大国に、そう何度も足を踏み入れるほど…俺は無謀ではないぞ。
「まさか、シェルドニア王国に行くんじゃないだろうな?」

「行きませんよ。あんな目に悪い国」

と、ルレイアはあっさり答えた。

あぁ、そう…。それなら安心した。

目に悪い国って、お前…。

シェルドニア王国は、右を見ても左を見ても、何処もかしこも真っ白だからな。

白い花、白い壁、白い道路…。

そして…国中に乱立する、恐ろしい白い塔。

知る人ぞ知る…悪名高き『白亜の塔』。

あんなものを見せられたら、ルレイアじゃなくても気分が悪くなる。

正直、俺ももう二度と見たくない。

『帝国の光』が作っていた『白亜の塔』の紛い物…『光の灯台』ですら、思い出しただけで眉をひそめる有り様なのに。

本家の『白亜の塔』を見に行くなんて、有り得ない。

俺は行かないし、ルレイアにも行かせない。

もう二度とな。

…しかし…。

「それなら、何でルシードの名前が…」

「こっちが行くんじゃないですよ。向こうが来るんです」

ルレイアにそう言われて、俺はようやく納得した。

そうか。

ルレイアがシェルドニア王国に行くんじゃなく、ルシードがルティス帝国に来るのか。

それなら安心じゃないか。

「俺だって、あんな目に悪い国には行きたくないですからね。『用があるならお前らが来い』って、アシミムに言ってやったんですよ」

お前って奴は、仮にも大国の女王に向かって…。

態度かデカいにも程があるが、ルレイアは自分が弱みを握った相手には、容赦なく強気に出るからな…。

シェルドニア王国の女王を顎で使うのは、ルティス帝国広しと言えど、お前くらいだよ。

我が相棒ながら、恐ろしくなってくるが…。

「そうしたら、ルシードを派遣するとのことです」

「アシミム本人じゃなかったのが残念だったな、ルレイア先輩」

「全くですよ。元縦ロールおばさん本人が来たら、頭に縦ロールのカツラをぶん投げてやったのに…」

失礼過ぎるだろ、ルレイア。

他国とはいえ、相手は女王なんだぞ。

万が一報復されたらどうするんだ…と思うが。

アシミム達は、『白亜の塔』の秘密やら、前王暗殺事件の秘密やらを握っているルレイアに、滅多なことはすまい。

絶対大丈夫だって分かってるから、ルレイアもここまで強気に出るんだろうし…。

…だからって、いくらでも失礼を働いて良い訳ではないからな。

人としての礼儀ってものがあるだろ。礼儀ってものが。

まぁ、アシミムやルシードを憎んでいるのは、俺も同じだが…。

「それで?何でルシードは、ルティス帝国に来るんだ?」

何か用事があるんだろう?わざわざアシミムが腹心を派遣するほどの理由が。

「簡単に言えば、事後報告ですね」

…とのこと。
「事後報告?」

「シェルドニア王国には『帝国の光』…及び、『光の灯台』建設に手を貸した馬鹿がいるでしょう?」

あぁ、いるな。

誰のことかなど、言わずとも分かる。

シェルドニア王国の重要な秘密を知る、上流貴族であるにも関わらず。

子供っぽい動機で、家宝である『白亜の塔』の資料を持ち出し、ルティス帝国に飛び。

そこで『帝国の光』…そしてヒイラ・ディートハットに手を貸し、『白亜の塔』の模倣品、『光の灯台』の建設に関わった、ドラ息子。

「あのハゲ野郎が起こした騒動のせいで、シェルドニア王国でも若干揉めたらしくて」

「そうなのか?」

それは珍しいな。

シェルドニア王国は、犯罪発生率が最も低い国として有名だ。

まぁ、それにはからくりがあるのだが…。

国民の気性は穏やかで、争い事を好まず、平和主義を体現したような国だ。

揉め事が起きるなんて、滅多にないはず。

それなのに…。

さすがのシェルドニア王国でも、今回のハゲ野郎の暴走には、目を瞑ることが出来なかったか?
すると。

「国民は穏やかだが、洗脳の影響を受けていない一部の特権階級は、至って普通の人間だからな」

ルリシヤが、単純明快な回答をしてくれた。

成程、そういえばそうだったな。

気性が穏やかなのは、あくまで洗脳の影響を受けた一般市民のみ。

ハゲ野郎…こと、シェルドニア王国上流貴族、バールレン家の次男、サシャ・バールレンは。

あいつは、『白亜の塔』の影響を受けていない。

おかしな話だよな。ご先祖が造り、自分達が開発資料を握っている『白亜の塔』を、自分達は使ってないんだから。

サシャみたいな大馬鹿野郎を止める為に、『白亜の塔』が開発されたんじゃないのか?

思い返せば思い返すほどに、『光の灯台』の件は危なかった。

サシャがもう少し賢くて、『光の灯台』がもし完成したら。

今頃ルティス帝国は、第二のシェルドニア王国になっていたかもしれないのだ。  

全く末恐ろしい。

洗脳されて、余計なことを考えなくて良くなれば、国民にとっては幸せなのかもしれないが。

だからって、あんなつまらない電信柱もどき一本で、自分の意志を捻じ曲げられるなんて御免だからな。

サシャが馬鹿で助かった。

…で、シェルドニア本国では、その馬鹿の起こした事件のせいで揉めていたと?

「どうなったんだ?あの馬鹿息子…」

「厳正に処分する、とか言ってましたけど…。あの国のことですから、俺達の言う『厳正』に比べたら、甘い処分だと思いますよ」

…だろうな。

マフィアの流儀では、「厳正に処分」と言えば、それは命を持って罪を償うことを指す。

が、あのシェルドニア王国では…どうだろうな。

犯罪発生率が低過ぎるせいで、良くも悪くも、人を裁くことに慣れていない国だからな。

ましてや、サシャの兄…バールレン家の長男、テナイ・バールレンは、弟を随分庇ってたみたいだし…。

情状酌量の余地ありと見なされて、案外軽い処罰を受けているだけかもな。

情状酌量の余地なんて、俺達の目から見たら一ミリもないんだけど。

「そういうことを報告する為に、ルティス帝国に来てもらうんですよ」

と、ルレイア。

成程…。ルシードの来訪の目的はそれか。
文書での報告ではなく、わざわざ腹心を寄越して、口頭で伝えさせるとは。

あれでアシミムも、今回の件では責任を感じてるってことなんだろう。

と言うか、ルレイアの機嫌を損ねるのが怖いのかもな。

アシミムも、ルレイアに散々な目に遭わされてる訳だから。

自業自得なんだけどな。

「折角だから空港に迎えに行って、カラーボールで歓迎してあげようと思ったんですよ」

ルレイアは残念そうにそう言った。

そういうことを「歓迎」とは言わないんだよ。

あと、空港でやるな。他の乗客と、空港で働いている人に大迷惑。

「ルシードは、『青薔薇連合会』に直接来るのか?」

「そう聞いてますけど」

「…なかなかの度胸だな」

アシミムの腹心とはいえ、マフィアの本拠地に単身乗り込むとは。

かなり勇気が要るんじゃないか。

…そう思ったが、しかし。

「大丈夫ですよ、そのくらい」

ルレイアは、このあっけらかんとした返事。

「何が大丈夫なんだよ?」

「だって、ルリシヤもルーチェスも、最初に会ったときは『青薔薇連合会』に単身乗り込んできたでしょう?」

「…」

…そういえばそうだったな。

いや、あいつらは特別だから。

心臓に豪毛生えてるような奴らと一緒にしてやるなよ。ルシードが可哀想だろ。

「何。俺達とて、カラーボールを投げる気はあったが、敵対するつもりはない」

と、ルリシヤが言った。

一般的には、出合い頭に挨拶代わりに激辛カラーボールを投げるという行為は、敵対以外の何物でもない。

「ここはシェルドニア王国の流儀に従い…平和的に事を解決しようじゃないか」

「…平和的に…ねぇ」

ルレイアがいる以上、それは無理なんじゃないかと思うけどな。
――――――…乗っていた飛行機が、ルティス帝国国際空港に降り立ち。

俺は、生まれて初めて…ルティス帝国の大地を踏みしめた。

最初にルレイア・ティシェリー達と会ったとき…『ホワイト・ドリーム号』で、ルティス帝国の領海に入ったことはあるが。

あのときは船に留まっていて、ルティス帝国に上陸した訳ではなかった。

今のところ、まだ空港しか見ていないが…さすがに、シェルドニア王国とは大きく違っている。

シェルドニア王国では、飛行機の機体も、機内のシートも通路も。

配られる毛布の一枚からして、全てが真っ白だが。

ルティス帝国のそれらは、白ではなく、水色っぽい色で統一されていた。

空港の外観も、白一色のシェルドニア王国と比べたら、随分とカラフルに見えた。

…何もかも、見慣れないものばかりだ。

正直あまり落ち着かないが、これも我が主…アシミム・ヘールシュミット女王陛下に頼まれた使命だ。

そう思えば、苦痛ではない。

我が国の上流貴族、バールレン家の次男が起こした、この度の不祥事。

その件について、『青薔薇連合会』に報告しに来た。

報告をするだけなら、書面を送るだけで簡単に済む。

…しかし、『青薔薇連合会』はそのような「無礼」を許してくれる組織ではない。

たかが一国のマフィア…と思うが、その影響力は、ルティス帝国の帝国騎士団にも匹敵する。

ましてや『青薔薇連合会』は、先王ミレドの暗殺事件や、シェルドニア王国の『白亜の塔』に関する秘密を知っている。

決して、軽んじて良い相手ではなかった。

その為に我が主は、わざわざ俺を派遣したのだ。

『青薔薇連合会』に、礼儀を尽くす為に。

他国のマフィアに頭を下げるのは本意ではない。

しかし、これも祖国と主の為。
 
そう思えば、大した苦痛ではなかった。