…だが。

俺がいる限りは、そのような無礼を働かせる訳にはいかない。

「…ルレイア」

「あいつ、いつも澄ましていてムカつきますからねー。一回痛い目を見せてやりたいと思ってたんですよ」

「前王の暗殺事件で、奴らには随分『世話に』なったからな。そのお礼をするには良い機会だ」

「話を聞け、お前ら」

勝手に和気あいあいしてるんじゃない。

「確かに、あいつらに世話になったのは事実だが…」

俺だって、アシミムやルシードには思うところがある。

今も許した訳じゃないからな。俺は。

あのとき、あいつらがルレイアにしたことを思うと…腹が立ちもする。

多分一生許せないだろう。

でも、だからって…攻撃された訳でもない相手に、殺人カラーボールをぶん投げて良い訳ではない。

大体そんなものぶん投げたら、投げられたルシードのみならず。

周囲にいる人間や、後でその現場を掃除する人間にも被害が及ぶだろ。

敵陣地のど真ん中で投げるなら良いけど、自分のテリトリーでやるのはやめろ。

危険が過ぎる。

「だからって、そんな嫌がらせをするんじゃない。子供じゃあるまいに」

「ほら、俺は心が少年なので…」

「アホなこと言ってないで、すぐに実験はやめろ」
 
それから、俺の部屋でやるな。

よそでやれ、よそで。

「もー…仕方ないですね、ルルシーったら…」

と、溜め息をつくルレイア。

何で俺が我儘言ったみたいになってるんだ。

我儘なのはお前だろ。

「仕方ありません。今回はルルシーに免じて…許してやるとしましょう」

「そうか…分かった」

「でも、そのカラーボールはいつか何かに使えそうなので…」

「そうだな。開発は続けよう」

続けんで良い。やめろ。

百歩譲って続けるにしても、俺の前でやるんじゃない。

ルレイアとルリシヤは、渋々といった風に実験道具を片付け。

危険な嫌がらせカラーボールの試作品を、ようやく俺の前から撤去してくれた。

ホッ。

自分の部屋なのに、まともに呼吸も出来ないなんて。どんな悪夢だ。

ようやく普通に息が出来る。

「はい、ルルシー。片付けましたよ」

「よし」

これで、俺の部屋に平和が戻ってきた。

…と、思ったけど。

まだ、全ての疑問が解決した訳ではない。

「…ルレイア」

「何ですか?」

「そういえば…何でルシードなんだ?」

お前ら、ルシードに嫌がらせカラーボール投げるって言ってたよな?

何故今、唐突に、ルシードの名前が出てくるんだ?

彼はルティス帝国から大海を挟んだ向こう側、シェルドニア王国にいるはずだろう。

まさか、俺達がシェルドニア王国を訪ねる訳ではなかろう?

あの洗脳大国に、そう何度も足を踏み入れるほど…俺は無謀ではないぞ。