―――――…どっかのアホが、とんでもない誤解と勘違いの沼に、ずぶずぶと足を踏み入れているその頃。
そんなことは、全く意に介さない俺達は。
「…どうです?ルリシヤ。進捗状況は?」
「あぁ。任せてくれ、もう少しだ」
「楽しみですね〜」
…『frontier』の夏フェスを終わった、その翌週。
今日も今日とて、当たり前のようにルレイアとルリシヤは、俺の執務室にやって来て、楽しくお喋り。
…してるだけなら、まぁ可愛いもんだ。いつものことだからな。
しかし、今日はいつもとは違った。
何故なら。
今日はこの二人、実験用ゴーグルをつけて、何やら怪しい実験をやっていた。
「…」
…なぁ。
…別に良いよ。お前らが何の実験をしようと。
危険がないなら、俺は口を出すつもりはない。
…でもな、これだけは言わせてもらうぞ。
俺の部屋でやるな。よそでやれ、と。
こいつら、俺の執務室を何だと思ってるんだ?
いつでも遊びに来て良い、公園みたいなものだと思ってるだろ。
公園感覚で訪ねてくるだけならともかく、そこで謎の実験を始めるんじゃない。
挙げ句、こいつら俺に無断で実験を始めたからな。
せめて家主の許可を取ってからにしろ。
これが本当に公園だとしても、勝手に実験をしたら怒られるぞ。
…しかも、顕微鏡を覗くとか、標本箱を眺めるとか、そんな可愛らしい実験ならまだしも。
「ルレイア先輩、そこの粉末ドラゴンズ・ブレスを取ってくれるか」
「はい、これですね」
「あぁ。これをビーカーに入れて、先程のハバネロペーストと…」
見てみろ。聞くにおぞましい実験をしてやがる。
ドラゴン?何だ?その無駄に格好良い材料は。
ちらりとルリシヤの手元を見ると、マグマのような赤い液体が入ったビーカーがあった。
なんか目がチリチリするんだが。気のせいか?
絶対近寄らない方が良い。本能で分かる。
何でそんな危険な実験を、俺の部屋でやるのか。
俺の部屋は実験室じゃないんだぞ。
すぐに出て行け!と叫びたいところだが…あまりにも奴らが危険な実験をしているせいで、声もかけづらい。
何で俺の部屋なのに、俺が遠慮しなければならないのか。
理不尽極まりない。
何を、何の為に作ってるんだか…。
まぁ、大体予想はつく。
あの実験材料を見るに、恐らくまた…ルリシヤの激辛カラーボールの改良版なんだろう。
あのシリーズ、もういい加減にした方が良いと思うんだが。ルリシヤはまだ満足していないらしいな。
…しかし、気になるのはルレイアだ。
ルリシヤが、あの悪趣味な自作カラーボールシリーズを開発するのはいつものことだが。
今回は何故か、そんなルリシヤの隣にルレイアがいる。
普段、ルレイアがルリシヤの実験に付き合うことはないはずだが…。
今日はまた、どういう風の吹き回しだ?
「ドラゴンズ・ブレスカラーボールの方はこれで良いとして…。他のブツは?」
他のブツ…?
ドラゴンズ・ブレスの時点で相当ヤバそうなんだが、他にもあるのか?
「色々考えてあるぞ。やはり母国の素材の方が馴染みがあるだろうと思って、調べてみたんだ」
「匠の気遣いですね!」
「ありがとう。ルレイア先輩に褒められると照れるな」
…何言ってんだ?お前らは。
匠の気遣い…?
「そういう訳で、こっちがシェルドニア王国で最も辛いと言われる、シェルドニアジゴクトウガラシだ」
シェルドニアジゴクトウガラシ…?
「こっちが、シェルドニア王国で最も酸っぱいと言われる、シェルドニアジゴクレモン。こっちがシェルドニア王国で最も甘い、シェルドニアジゴクザラメだ」
…そんな種類が…?
シェルドニア王国の名産物って…俺もそんなに詳しくないけどさ。
本当、突飛な食べ物が多いよな。
ルティス帝国の食文化に慣れていたら、カルチャーショックが半端じゃない。
…で、ルリシヤとルレイアは、そのシェルドニア王国の謎の特産物で、何をたくらん、
「これでカラーボールを作って、ルシードにぶん投げてやりましょうね!」
「ちょっと待て。何考えてんだお前」
これ以上、黙って静観しておけなかった。
ルレイアの相棒兼、お目付け役として。
今のは聞き捨てならなかったぞ、おい。
「…?どうしたんですか、ルルシー」
どうしたんですかじゃない。
お前がどうしたんだよ。
ちょっと色々聞き捨てならないから、1から説明してもらおうか。
「何やろうとしてんだ?お前らは。ちょっと目を離したら…」
絶対ろくなことじゃないに決まってる。
椅子から立ち上がって、ルレイアに近づこうとしたら。
「あ、ルルシーゴーグル無しで近づいたら、」
「うっ…」
「あー…。言わんこっちゃない」
ドラゴンズ・ブレスの凄まじい威力に、ゴーグルをつけていなかった俺は、後ろにひっくり返りそうになった。
目が燃える。
「大丈夫ですか?ルルシー」
「迂闊に近寄ると、痛い目を見るぞ。ルルシー先輩。これはかの名高きドラゴンズ・ブレスだからな」
そんな危険物を、俺の部屋に持ち込むんじゃねぇ。
ルレイアが、俺に真っ黒のレース付きハンカチを差し出してくれたので。
有り難くそれを借りて、両目を押さえた。
はぁ…危ないところだった…。
…。
…って、一息ついてる場合じゃない。
「お前ら、何を企んでるんだ?」
「はい?」
とぼけたって無駄だぞ。
さっき聞いたからな、俺。
お前今、聞き捨てならないことを言ってただろう。
「お前ら、さっきから俺の部屋で何をやってるんだ」
「嫌がらせカラーボールを作ってます」
潔いな。やっぱり嫌がらせ目的なのか。
まぁ、それ以外に用途なんてないわな…。
「何か駄目でした?」
「…駄目ではない」
勘違いしないで欲しいが、俺は別に、カラーボールを作ってることに文句を言っている訳ではない。
別に良い。嫌がらせカラーボールを作る行為自体は。
馬鹿馬鹿しいように見えて、意外と有事には役に立つと知ってるからな。
これまで何度も、ルリシヤのお手製カラーボールに助けられてきた。
だから、カラーボールを作る行為そのものは別に良い。
問題は、その開発を俺の部屋でやるなってことと…。
「…誰にぶつけるって?」
「はい?」
「それを誰に投げつけるって?」
「ルシードです」
大問題。
聞き捨てならない大問題だ。
覚えているだろうか、ルシード・キルシュテンという人物を。
彼はシェルドニア王国の女王、縦ロールおばさんこと、アシミム・ヘールシュミットの腹心である。
ルレイアに言わせれば、アシミムの腰巾着…らしいが。
あれでかなりの実力者であり、アシミムにとっては頼りになるボディーガードだろう。
シェルドニア王国で一悶着あった相手だが、何故その人物に、激辛カラーボールをぶん投げるという事態になるんだ。
「何でそんなことをするんだ?」
「え?だってムカつくじゃないですか」
「…」
…そんな適当な理由で。
ルシードはドラゴンズ・ブレスやら、シェルドニアジゴク何たらいう素材で作った、嫌がらせカラーボールを投げられるのか。
たまったもんじゃないな。気の毒に。
…だが。
俺がいる限りは、そのような無礼を働かせる訳にはいかない。
「…ルレイア」
「あいつ、いつも澄ましていてムカつきますからねー。一回痛い目を見せてやりたいと思ってたんですよ」
「前王の暗殺事件で、奴らには随分『世話に』なったからな。そのお礼をするには良い機会だ」
「話を聞け、お前ら」
勝手に和気あいあいしてるんじゃない。
「確かに、あいつらに世話になったのは事実だが…」
俺だって、アシミムやルシードには思うところがある。
今も許した訳じゃないからな。俺は。
あのとき、あいつらがルレイアにしたことを思うと…腹が立ちもする。
多分一生許せないだろう。
でも、だからって…攻撃された訳でもない相手に、殺人カラーボールをぶん投げて良い訳ではない。
大体そんなものぶん投げたら、投げられたルシードのみならず。
周囲にいる人間や、後でその現場を掃除する人間にも被害が及ぶだろ。
敵陣地のど真ん中で投げるなら良いけど、自分のテリトリーでやるのはやめろ。
危険が過ぎる。
「だからって、そんな嫌がらせをするんじゃない。子供じゃあるまいに」
「ほら、俺は心が少年なので…」
「アホなこと言ってないで、すぐに実験はやめろ」
それから、俺の部屋でやるな。
よそでやれ、よそで。
「もー…仕方ないですね、ルルシーったら…」
と、溜め息をつくルレイア。
何で俺が我儘言ったみたいになってるんだ。
我儘なのはお前だろ。
「仕方ありません。今回はルルシーに免じて…許してやるとしましょう」
「そうか…分かった」
「でも、そのカラーボールはいつか何かに使えそうなので…」
「そうだな。開発は続けよう」
続けんで良い。やめろ。
百歩譲って続けるにしても、俺の前でやるんじゃない。
ルレイアとルリシヤは、渋々といった風に実験道具を片付け。
危険な嫌がらせカラーボールの試作品を、ようやく俺の前から撤去してくれた。
ホッ。
自分の部屋なのに、まともに呼吸も出来ないなんて。どんな悪夢だ。
ようやく普通に息が出来る。
「はい、ルルシー。片付けましたよ」
「よし」
これで、俺の部屋に平和が戻ってきた。
…と、思ったけど。
まだ、全ての疑問が解決した訳ではない。
「…ルレイア」
「何ですか?」
「そういえば…何でルシードなんだ?」
お前ら、ルシードに嫌がらせカラーボール投げるって言ってたよな?
何故今、唐突に、ルシードの名前が出てくるんだ?
彼はルティス帝国から大海を挟んだ向こう側、シェルドニア王国にいるはずだろう。
まさか、俺達がシェルドニア王国を訪ねる訳ではなかろう?
あの洗脳大国に、そう何度も足を踏み入れるほど…俺は無謀ではないぞ。
「まさか、シェルドニア王国に行くんじゃないだろうな?」
「行きませんよ。あんな目に悪い国」
と、ルレイアはあっさり答えた。
あぁ、そう…。それなら安心した。
目に悪い国って、お前…。
シェルドニア王国は、右を見ても左を見ても、何処もかしこも真っ白だからな。
白い花、白い壁、白い道路…。
そして…国中に乱立する、恐ろしい白い塔。
知る人ぞ知る…悪名高き『白亜の塔』。
あんなものを見せられたら、ルレイアじゃなくても気分が悪くなる。
正直、俺ももう二度と見たくない。
『帝国の光』が作っていた『白亜の塔』の紛い物…『光の灯台』ですら、思い出しただけで眉をひそめる有り様なのに。
本家の『白亜の塔』を見に行くなんて、有り得ない。
俺は行かないし、ルレイアにも行かせない。
もう二度とな。
…しかし…。
「それなら、何でルシードの名前が…」
「こっちが行くんじゃないですよ。向こうが来るんです」
ルレイアにそう言われて、俺はようやく納得した。
そうか。
ルレイアがシェルドニア王国に行くんじゃなく、ルシードがルティス帝国に来るのか。
それなら安心じゃないか。
「俺だって、あんな目に悪い国には行きたくないですからね。『用があるならお前らが来い』って、アシミムに言ってやったんですよ」
お前って奴は、仮にも大国の女王に向かって…。
態度かデカいにも程があるが、ルレイアは自分が弱みを握った相手には、容赦なく強気に出るからな…。
シェルドニア王国の女王を顎で使うのは、ルティス帝国広しと言えど、お前くらいだよ。
我が相棒ながら、恐ろしくなってくるが…。
「そうしたら、ルシードを派遣するとのことです」
「アシミム本人じゃなかったのが残念だったな、ルレイア先輩」
「全くですよ。元縦ロールおばさん本人が来たら、頭に縦ロールのカツラをぶん投げてやったのに…」
失礼過ぎるだろ、ルレイア。
他国とはいえ、相手は女王なんだぞ。
万が一報復されたらどうするんだ…と思うが。
アシミム達は、『白亜の塔』の秘密やら、前王暗殺事件の秘密やらを握っているルレイアに、滅多なことはすまい。
絶対大丈夫だって分かってるから、ルレイアもここまで強気に出るんだろうし…。
…だからって、いくらでも失礼を働いて良い訳ではないからな。
人としての礼儀ってものがあるだろ。礼儀ってものが。
まぁ、アシミムやルシードを憎んでいるのは、俺も同じだが…。
「それで?何でルシードは、ルティス帝国に来るんだ?」
何か用事があるんだろう?わざわざアシミムが腹心を派遣するほどの理由が。
「簡単に言えば、事後報告ですね」
…とのこと。
「事後報告?」
「シェルドニア王国には『帝国の光』…及び、『光の灯台』建設に手を貸した馬鹿がいるでしょう?」
あぁ、いるな。
誰のことかなど、言わずとも分かる。
シェルドニア王国の重要な秘密を知る、上流貴族であるにも関わらず。
子供っぽい動機で、家宝である『白亜の塔』の資料を持ち出し、ルティス帝国に飛び。
そこで『帝国の光』…そしてヒイラ・ディートハットに手を貸し、『白亜の塔』の模倣品、『光の灯台』の建設に関わった、ドラ息子。
「あのハゲ野郎が起こした騒動のせいで、シェルドニア王国でも若干揉めたらしくて」
「そうなのか?」
それは珍しいな。
シェルドニア王国は、犯罪発生率が最も低い国として有名だ。
まぁ、それにはからくりがあるのだが…。
国民の気性は穏やかで、争い事を好まず、平和主義を体現したような国だ。
揉め事が起きるなんて、滅多にないはず。
それなのに…。
さすがのシェルドニア王国でも、今回のハゲ野郎の暴走には、目を瞑ることが出来なかったか?
すると。
「国民は穏やかだが、洗脳の影響を受けていない一部の特権階級は、至って普通の人間だからな」
ルリシヤが、単純明快な回答をしてくれた。
成程、そういえばそうだったな。
気性が穏やかなのは、あくまで洗脳の影響を受けた一般市民のみ。
ハゲ野郎…こと、シェルドニア王国上流貴族、バールレン家の次男、サシャ・バールレンは。
あいつは、『白亜の塔』の影響を受けていない。
おかしな話だよな。ご先祖が造り、自分達が開発資料を握っている『白亜の塔』を、自分達は使ってないんだから。
サシャみたいな大馬鹿野郎を止める為に、『白亜の塔』が開発されたんじゃないのか?
思い返せば思い返すほどに、『光の灯台』の件は危なかった。
サシャがもう少し賢くて、『光の灯台』がもし完成したら。
今頃ルティス帝国は、第二のシェルドニア王国になっていたかもしれないのだ。
全く末恐ろしい。
洗脳されて、余計なことを考えなくて良くなれば、国民にとっては幸せなのかもしれないが。
だからって、あんなつまらない電信柱もどき一本で、自分の意志を捻じ曲げられるなんて御免だからな。
サシャが馬鹿で助かった。
…で、シェルドニア本国では、その馬鹿の起こした事件のせいで揉めていたと?
「どうなったんだ?あの馬鹿息子…」
「厳正に処分する、とか言ってましたけど…。あの国のことですから、俺達の言う『厳正』に比べたら、甘い処分だと思いますよ」
…だろうな。
マフィアの流儀では、「厳正に処分」と言えば、それは命を持って罪を償うことを指す。
が、あのシェルドニア王国では…どうだろうな。
犯罪発生率が低過ぎるせいで、良くも悪くも、人を裁くことに慣れていない国だからな。
ましてや、サシャの兄…バールレン家の長男、テナイ・バールレンは、弟を随分庇ってたみたいだし…。
情状酌量の余地ありと見なされて、案外軽い処罰を受けているだけかもな。
情状酌量の余地なんて、俺達の目から見たら一ミリもないんだけど。
「そういうことを報告する為に、ルティス帝国に来てもらうんですよ」
と、ルレイア。
成程…。ルシードの来訪の目的はそれか。
文書での報告ではなく、わざわざ腹心を寄越して、口頭で伝えさせるとは。
あれでアシミムも、今回の件では責任を感じてるってことなんだろう。
と言うか、ルレイアの機嫌を損ねるのが怖いのかもな。
アシミムも、ルレイアに散々な目に遭わされてる訳だから。
自業自得なんだけどな。
「折角だから空港に迎えに行って、カラーボールで歓迎してあげようと思ったんですよ」
ルレイアは残念そうにそう言った。
そういうことを「歓迎」とは言わないんだよ。
あと、空港でやるな。他の乗客と、空港で働いている人に大迷惑。
「ルシードは、『青薔薇連合会』に直接来るのか?」
「そう聞いてますけど」
「…なかなかの度胸だな」
アシミムの腹心とはいえ、マフィアの本拠地に単身乗り込むとは。
かなり勇気が要るんじゃないか。
…そう思ったが、しかし。
「大丈夫ですよ、そのくらい」
ルレイアは、このあっけらかんとした返事。
「何が大丈夫なんだよ?」
「だって、ルリシヤもルーチェスも、最初に会ったときは『青薔薇連合会』に単身乗り込んできたでしょう?」
「…」
…そういえばそうだったな。
いや、あいつらは特別だから。
心臓に豪毛生えてるような奴らと一緒にしてやるなよ。ルシードが可哀想だろ。
「何。俺達とて、カラーボールを投げる気はあったが、敵対するつもりはない」
と、ルリシヤが言った。
一般的には、出合い頭に挨拶代わりに激辛カラーボールを投げるという行為は、敵対以外の何物でもない。
「ここはシェルドニア王国の流儀に従い…平和的に事を解決しようじゃないか」
「…平和的に…ねぇ」
ルレイアがいる以上、それは無理なんじゃないかと思うけどな。
――――――…乗っていた飛行機が、ルティス帝国国際空港に降り立ち。
俺は、生まれて初めて…ルティス帝国の大地を踏みしめた。
最初にルレイア・ティシェリー達と会ったとき…『ホワイト・ドリーム号』で、ルティス帝国の領海に入ったことはあるが。
あのときは船に留まっていて、ルティス帝国に上陸した訳ではなかった。
今のところ、まだ空港しか見ていないが…さすがに、シェルドニア王国とは大きく違っている。
シェルドニア王国では、飛行機の機体も、機内のシートも通路も。
配られる毛布の一枚からして、全てが真っ白だが。
ルティス帝国のそれらは、白ではなく、水色っぽい色で統一されていた。
空港の外観も、白一色のシェルドニア王国と比べたら、随分とカラフルに見えた。
…何もかも、見慣れないものばかりだ。
正直あまり落ち着かないが、これも我が主…アシミム・ヘールシュミット女王陛下に頼まれた使命だ。
そう思えば、苦痛ではない。
我が国の上流貴族、バールレン家の次男が起こした、この度の不祥事。
その件について、『青薔薇連合会』に報告しに来た。
報告をするだけなら、書面を送るだけで簡単に済む。
…しかし、『青薔薇連合会』はそのような「無礼」を許してくれる組織ではない。
たかが一国のマフィア…と思うが、その影響力は、ルティス帝国の帝国騎士団にも匹敵する。
ましてや『青薔薇連合会』は、先王ミレドの暗殺事件や、シェルドニア王国の『白亜の塔』に関する秘密を知っている。
決して、軽んじて良い相手ではなかった。
その為に我が主は、わざわざ俺を派遣したのだ。
『青薔薇連合会』に、礼儀を尽くす為に。
他国のマフィアに頭を下げるのは本意ではない。
しかし、これも祖国と主の為。
そう思えば、大した苦痛ではなかった。