私……この優しい手、知ってる……。
でも、誰だっけ……。
思い出せなくて、ぐるぐるとした気持ちを感じながら、微睡む。
「お…て、ほーら、起きて」
だんだん、よく聞こえてくるようになる。
「緋」
その声が、はっきりと聞こえた。
あまりにも直接話しかけられているような聞こえて、ばっと飛び起きる。
きょろきょろとあたりを見回すけど、誰もいない。
……ゆ、め?
というか、どうして今あの声を思い出したんだろう。
誰もいなかったことへの安心感と、彼がいなかったことへのちょっと沈んだ気持ち。
ほっと息を吐いた時――――――
「ばぁ!」
突然声がして、机の前からぴょんと飛び出てくるのは、人。
・ ・ ・ 。
きっちり3秒固まってから、
「うにゃああぁ!」
なんて変な奇声を出す私。
「…ふっ、あは、あはははっ!緋、反応っ面白すぎ!……ははっ!」
と目の前で爆笑しているのは、
「さて、俺の事、覚えてるよね、緋」
私の幼馴染で、初恋の人で、今でも好きな、
「ち、とせ…………?」
―――――衣川 千歳だった。