「……ううん。なんでも、ない、よ……」



私は、また逃げた。



「っ……」



ズキリと胸を刺されるような感覚がした。


私は、どうしたいんだろう……。


い、たい……。


また心が暗くなりかけた私を大きな音が現実に戻した。


なんの、音……?


その暴れるような音は、近づいたり離れたりをしばらく繰り返した。



「……残念、って言うべきかな」



ふと薫が言った。



「薫は、この音がなにか分かってるの……?」


「ああ。もちろん。思ったより早かったね」



薫はいたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔をしていた。



「誰……?」



私が考え始めてすぐ。


近くで、ダンダンッ、バンッという音がした。



「ようやく見つけたぜ……薫!!」