『朱奈ちゃん……?どうしたの……』
『別に。緋は気にしなくてもいいことでしょ』
『もう、どうだっていい』
『まって、朱奈ちゃ……』
『何も分からないくせに!優しくなんてしないでよ!』
もう、自分が分からない。
「千歳っ……」
助けて。
そう言いたかったけど、何かが言わせてくれない。
ダメだ。
朱奈ちゃんを助けてあげられなかった私が、誰かに助けを求めるのは。
ずっとドアに背中を預けて、泣き続けた。
千歳がそばにいると頭ではわかっていた。
それでも、ドアは私に冷たさを与えてくるだけで、千歳の優しさを通してはくれなかった。
目の前が歪んでいく。
涙のせい?
ううん、違う。
歪んでいくだけじゃない。
暗くなっていく。
周りのものが見えなくなって。
自分も見えなくなった。
私の泣く声が、離れていくように聞こえなくなった。
何も分からない“そこ”で、大切なものが、壊れていく。
……─────。