「満席らしいぞ」


舞台袖で開演の時を待っていると、佐紺先輩が話しかけてきた。


佐紺先輩はわたしが演じる姫の兄役で、国を追われた騎士と姫の前に立ちはだかる敵となる。


クレジット順がわたしと斑に次ぐ2番手という重要な役どころだ。


特に斑との殺陣のシーンは中盤から後半にかけての見どころとなっていて、練習中、ハルルを筆頭にみんながキャーキャー騒いでいた。


物語では敵だけど、稽古ではすぐにセリフを覚えてきたり物語上の世界史を教えてくれたりと、ほんとにお兄ちゃんのような存在だった。


それを伝えたら複雑そうな顔をされてしまったけれど。


「ほんとですか⁉︎……よかったぁ」

「『花姫と番犬』が『姫と騎士役』って、大々的に宣伝したのが効いたみたいだ」

「じゃあわたし、役に立てたんですね」


大道具班が舞台を組み立てていくのを見守りながら、ほっと息をつく。