会場に到着してすぐ、見知った顔がキョロキョロしているのを見つけた。
「あれー八巻。どしたの?」
「あっ、よかった。知ってる人を探してたんです。1人で観るのは、ちょっと勇気が……」
「じゃあ一緒に観よう」
「はい!」
八巻くんと合流して席に着いた。
「八巻くんはどうしてこの劇を観ようと思ったの?」
「僕、大河とか時代劇が好きで。これだけは観ようと決めてました」
「そうなんだ」
そんな話をしながら開幕を待つ。
周りを見れば、みんな友だちと楽しそうに会話している。
開演前の期待が高まっていくような独特の雰囲気。これも演劇祭の醍醐味なのかもしれない。
「そういえば、さっき黒桜先輩を見かけましたけど、なんかいろいろ回ってるみたいですね」
思いだしたように八巻くんが話題を転換させた。
「そうなの?」
「はい、佐近先輩と一緒に。つい古典ファンタジー部門に目が行きがちですけど、ほかの部門が最優秀作品賞を取る可能性だってありますから。調査らしいです」
「へぇ」
斑がそんなことを。