斑がなにも反応を見せないので、代わりにわたしが応える。
「亜白先輩の劇とは時間がかぶってるんですよね」
「そうだね。だから観にいけないけど、『頑張って』って言葉だけは送らせてもらうよ。……あぁそれと」
亜白先輩はもったいぶるようにひと息おくと、わたしの耳元に顔を近づけてきた。
「その服、似合ってるよ」
終始表情をやわらかくしたまま、亜白先輩も舞台袖から出ていった。
ナンパな言葉も亜白先輩が言うとスマート。
言い慣れてるんだろうなとわかっていても、純粋な褒め言のように聞こえる。不思議。
……だめだめ。ほだされちゃ。
亜白先輩とは賭けをしてるんだ。
最優秀作品賞を取れなければ、言うことを聞かないといけない。デートをしないといけないかもしれないし、試しにつき合わないといけないかもしれない。
今は敵同士だ。
「安心しろ」
「ん?」
「苫は俺が守る。絶対だれにも渡さない」
え……。