これが恋なのだろうか。まだ出会って数日の月のお姫さまに恋をしてしまった。それを自覚すると頭の先からつま先まで、真っ赤になるような感覚に襲われた。
零と朔と話したことも自分の中で整理する。さっきのことって、ゆめも全部知ってるのかな。あーっもうわからんっ!!
ぐしゃぐしゃと頭をかいていると、スマホが震えた。慌ててポケットから取り出すと、画面には紅葉かえでの文字。
「はじめくん!? ネットみた? 大変なことになってるよ!!」
電話に出た途端そう言われて、ビクッと体が跳ねる。
ちょっとかわれ、と小さい声が電話の向こうで聞こえた。
「はじめ? 俺、夏樹。ゆめの消失動画が拡散してる。塾でも話題になってるぞ。いまどこだ? 家か?」
「うん、家」
「この分だと、家特定されるのも時間の問題だ。たぶんテレビ局はこぞって昼のワイドショーで動画を使うだろう。週刊誌に張り込まれてる可能性もある。外、見れるか? カーテン閉めて、のぞくだけにしろよ」
そう言われて二階の自室に上り、そっとカーテンを閉めて、少しめくって外に目をやる。
人はいないが、怪しげな車やら、バイクが二、三台止まっている。普段ならこんなことないのに。
「怪しげな車やらバイクがある……」
「おい、とにかく今日は塾は休め。カーテン閉めて、外に出るなよ。ゆめもな」
夏樹にそう指示されるだけで、イラッとする。夏樹は心配してくれてるだけなの? それはゆめだから?
「……わかった。ありがとう」
なんとかそう絞り出すのがやっとだった。悪気があって言ってるわけじゃないのはわかる。でもなんか癪だ。
「じゃあ、またな」
夏樹はそれ以上何も訊いてこなかった。それも逆に気になったが、そのまま電話を切った。電話を切ると同時に、零からメッセージが届いた。
“外に不審車両何台か確認。睨んではおいたが、とにかく家から出るなよ!!”
今日は家に軟禁か。やれやれとおもいながら、ゆめの様子を見に祖父の部屋へ行く。
少し開いた襖から、中をのぞく。ゆめが向田の膝に突っ伏してわんわん泣いているのが見えた。
なんで泣いてるんだろう。そう思ったが部屋に入れる雰囲気ではなかったので、
そっとはじめはその場を離れた。
ダイニングテーブルに、二階の自室にいること、今日は念のため外に出ないようメモ書きを置いて、自室で勉強を始めた。
時計を見ればもう10時。やれやれと息をついて参考書を開く。思ったより集中の波は早くやってきて、すぐに飲み込まれた。ハッと気がついて時計を見るともう13時半を回っていた。
あわてて下へ降りていくと、向田とゆめはダイニングテーブルに着いて、おしゃべりをしているようだった。