はじめの向こう側に、朔と零が並んで座る。

「はじめ、結論から言う。ゆめが人だかりの前で姿を消すところを見られた」

零はスマホの画面を見せてきた。SNSに上がっている動画は、警察官に話を聞かれているであろうゆめの姿が急に消え、周囲の人の悲鳴が聞こえたところで終わっていた。

「なに……これ」

警察官を知らなかったゆめが、パニックを起こして力を使ってしまったのだろう。場外市場は人でごった返していて、ゆめの姿を見失ったのが全ての原因だと零は言う。

「……、どうしよう、もう5万も拡散されてる……。これで帰っちゃうの?」

「……まだ大王様から連絡はありません
が、その可能性は否定できません」

「そんな……」

はじめはテーブルに両肘をついて頭を抱えた。

「とりあえず、ゆめちゃんは今日は家にいたほうがいい。月の入りは何時だ?」

そう言われてハッとする。零はなんでゆめが姿を消す能力があること知ってるんだろう。朔とはどこで知り合った? 月の入りを聞いてくるってことは……「零は、知ってるの? ゆめがどこからきたとか、何しにきたとか、なぜ地球に来たのか」

ぐっと零が唾を飲む音がする。

「……朔さん」

零が朔の方を見る。朔も大きく息をつく。

「私からお話しします……。はじめ様、実は姫様の姉、満月様も地球に来たことがあるのです。もう五年ほど前になります。そのときも、こちらのお宅でお世話になりました」

「……えっ……?」

あまりのことに、はじめは動きを止めた。

「帰国してびっくりしたよ。はなに、うり二つの女の子が家にいるんだから。雰囲気もそっくりだったから、たぶんはなの妹かなと思ってさ。大丈夫、はなが大王様から特例もらってくれたから、俺がいろいろ知ってたところで、ゆめちゃんが帰るってことにはならないよ。あ、はなってのは満月の地球での呼び名ね」

情報が多すぎて整理できない。はじめはゆめに姉がいるのも初めて知った。
そこでひとつ疑問が浮かぶ。

「ねぇ、向田さんってこのこと知ってるの?」

「そういえば、はなのときも坂井のお嬢様が来たって、何も疑問に思ってないみたいだったけどな。んん?」

はじめと零は朔の顔をのぞきこむ。

「向田さんは何も知らないはずです。なにか感づいているのかもしれませんが、こちらでは把握できていません。心の中までは覗けないので」

「地球鏡をもってしても、心の中はみれないってことだな」

「そうです」

「じゃあ、もしゆめが月から来たことに気が付いた人がいても、言葉に出さなければ違反にはならないってことだね」

「そうなりますね」「ねえ、朔さん。いったい、ゆめやお姉さんは何のために見学に来たの? 見学以外の目的があるようにしか思えないんだけど」

「……恋をしにきたのですよ」

「はぁ? 恋?」

はじめは驚いて大きな声を出した。零は知っていたのか静かに耳を傾けている。

「満月姫も月夜姫も、地球人に恋をされました。しかしそれは月では重罪です。その恋心を浄化するための地球謹慎処分。それが地球見学の本質です」

はぁ、なんかわかるようなわからないような。説明が足りない。