「朔さん、なんとかできる?」
「なんとかします」
そう言い終わらないうちに、思いっきりハンドルを、切った。バイクは曲がり切れずにそのまま直進していったっきり、戻っては来なかった。
「とりあえずはいいでしょう。家に向かいます」
朔の言葉が遠く聞こえる。ゆめは息が苦しくなって意識が朦朧とする。
どうしよう、息が……す、吸えない。
「ゆめちゃん!? ゆめちゃ──」
肩を叩かれ、名前を呼ばれたところまでは覚えているがそのまま意識を手放した。***
ゆめが帰ってきたのは、はじめが塾に行く直前の8時40分頃だった。
「はじめー!! 布団用意して!!」
兄の大声で、二階で支度をしていたはじめは驚いて階段を駆け降りた。
ゆめを抱えて、血相をかかえている零。ただごとではないと、はじめは慌てて祖父の部屋に布団を敷く。
零はすぐゆめを布団に前屈みに座らせた。
「たぶん過呼吸だと思う。はじめ、声かけてあげて」
「うっうん……」
零からゆめを託されて、背中をさすりながら声をかける。
「ゆめ、大丈夫だよ」
「うん、ゆっくり息するように……」
零にそう言われ、はじめはうなづいて、ゆめの手をぎゅっと握る。
「ゆめ、ゆっくり息して? 大丈夫だから。もう安心していいよ」
ゆめの荒かった息が少しずつゆっくりになる。顔色も少しずつ戻ってきた。
息が安定するのを待って、そっと布団に寝かせ、布団をかけた。
「たぶんもう大丈夫。はじめ、うまいじゃん」
零にバシッと肩を叩かれた。
「……、零リビングきて」
リビングに入るなり、はじめは零の胸ぐらを掴みかかった。
「なんであんなことになんの!? どういうこと!?」
後ろからついてきていた朔があわてて間に入る。
「はじめ様!! 落ち着いてください! 零様は何もしておりません!! 座ってお話を!!」
すでに出勤してきていた向田もおろおろと狼狽える。
はじめは、肩でしていた息をなんとか押し留めて零の胸ぐらから手を離すと、ドカンとダイニングテーブルにつく。「あっ、あの……お茶入れますね」
向田は慌ててお茶の用意をしようとするが、零が向田に、ゆめに付き添ってもらうよう声をかけて席を外させた。